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わぁくしょっぷパオ
大阪と奈良を分ける生駒山。その生駒山と大阪市の間に位置しているのが東大阪市。人口約五二万。金属関係や機械関係の中小零細企業が多いまちだ。
被差別部落、蛇草(はぐさ)地区はこの東大阪市にある。約一八〇〇世帯の規模の大きい部落である。部落解放同盟蛇草支部の事務所がある会館のすぐ近くに蛇草地区障害者作業所「わぁくしょっぷパオ」がある。この作業所は一一年前に開所した。当時、障害児をもつ親たちが、健常児との統合教育を求めて立ち上がり、地元の小、中学校で実現させた。しかし、中学校を卒業したあと、子どもたちが行くところがない。どうしたらいいのか。そこで生まれてきたのが障害者の作業所をつくろうということだった。蛇草支部や地元の人たちの応援をえて、一一年前にプレハブの倉庫内に作業所ができた。そのとき以来取り組んできたのが牛乳パックのリサイクルである。
ミルクロードの会 発足
昨年一〇月、牛乳パックのリサイクルを手がけている近畿地方の障害者作業所や生協がスクラムを組んで「関西ミルクロードの会」を結成した。二月までは愛媛県川之江市にある製紙会社が牛乳パックを引き取り、再生していたが、業績不振から廃業した。
このためリサイクルにたずさわってきた人たちが相談した結果、「ミルクロードの会」が誕生した。部落解放運動の中から生まれた大阪市住吉区の住吉生協の専務理事で、「ミルクロードの会」結成の"仕掛人"の一人、Oさんは「牛乳パックの取り組みは、森林保護と障害者の仕事をつくりだす、健常者との交流を広げるというのが大きな目的。製紙会社の廃業で止めてしまったら、障害者の仕事はどうなるんだということを真っ先に思いました」と語る。
現在、「ミルクロードの会」に加盟しているのは、近畿の約三〇にのぼる障害者作業所と滋賀県環境生活協同組合、関西生活協同組合連合会。蛇草の作業所「パオ」もその一員。取り扱い量は「ミルクロードの会」の中でもトップクラスだ。
現在、障害者は一六歳から三三歳まで、女二人、男六人の合わせて八人。このうち重度の二人をのぞく六人が毎日、作業に当たっている。そして指導員やパートなど四人がいっしょにやっている。
作業所のほか、ムラの中には二カ所、牛乳パックを入れてもらうカゴをおいてある。さらに地元の小、中学校、商店街、大学生協なども回収に協力、集まったパックを作業所にもってきてくれたり、作業所が取りに行ったり。量的に一番多いのは大阪を中心に多くの店舗をもつM百貨店。企業の立場から部落問題に取り組むM百貨店は、資源リサイクルの意義や障害者の仕事保障ということで積極的に取り組んできた。大阪にある約八〇の店舗すべてに回収カゴをおいてある。各店舗に品物を配達に行った本社の車が、その帰りにパックを積んでくる。「パオ」の人たちは毎日二、三回、それを車で取りに行く。
牛乳パックが詰まったダンボール箱の積みおろしに当たる障害者は生き生きした表情だ。こうして様々な人たちが協力して集めた牛乳パックは一カ月で一〇トンから一一トン。このうちM百貨店のが八割以上を占めているが、これも消費者の協力があってこそ。こうして集められた牛乳パックのリサイクルに取り組んでいるのが障害者であることをできるだけ知ってもらい、障害者問題に対する関心を深めてくれたらというのが関係者の願いだ。
集めた牛乳パックはゴミなどを取り除きつぶしてからダンボール箱に詰める。それを再生紙回収業者が週に一回、作業所に取りに来る。その業者が愛媛パルク協同組合に送り、製紙会社製品化するというシステムになっている。
「ミルクロードの会」では独自ブランドとして「おかえりティシュ」とトイレットペーパー「ただいまロール」と名づけ、作業所や生協で販売している。回収だけでなく、再生、販売も手がけているわけだ。そこには「自分たちがつかったものを、自分たちで集め、再生し、またつかうというのが本当のリサイクル」という考えがある。
パオの運営
「パオ」ではトイレットペーパーを四八〇円、ティシュを三八〇円で販売している。これは大手製紙会社の製品とほとんど同じ値段だが、大手はスーパーなどで「特売」をやっており、作業所のはこの場合値段がちょっぴり高くなってしまう。長男が障害者でここで働き、自身も指導員をしているKさんは「一番の願いは、私たちの商品がもっと売れないかということ。あまり売れないと、製紙会社が引き受けてくれなくなりますから」といい、販路開拓にも力を入れている。
これらの品物とは別に、「パオ」独自で製品をつくっている。牛乳パックを細かく切り、洗たく機に入れてかきまぜる。それをさらにミキサーで細かくし、水槽に入れて紙をもどす。そして最後に和紙づくりと同様に紙をすく。つくっているのはハガキ、名刺、シオリ、便せんなどで、注文に応じて随時つくっている。牛乳パックの回収の仕事がすむと、障害者たちはパックを細かく切る作業にとりかかる。
トイレットペーパーとティシュは一箱(一ロール)につき一円が基金として、「ミルクロードの会」の活動などにあてられることになっている。つまり消費者はこの商品を買うと、一円基金で"応援"したことになるわけだ。箱にはリサイクルに取り組んでいる約三〇〇の団体名が印刷されている。
ところで「パオ」の運営は月に一回ひらかれる運営委員会で決定される。作業所のスタッフのほか、地元の長瀬北小、金岡中と地元の人が参加する。作業所に入所の唯一の条件は金岡中学校を卒業した生徒であること。現在の八人のうち、二人は部落外の人だ。
障害者の"賃金"は、一日四〇〇円。仕事は朝九時半から夕四時半まで。一カ月の収入は平均一万円ほど。この賃金は牛乳パックからでている。回収業者に一トン一万円で売れる。月に一〇トンほどあるから一〇万円ぐらいになる。これで八人の賃金がまかなえる。もっと賃金を高くしたいが、現在の仕事量ではこれが精いっぱいだという。指導員らの賃金は、国などの助成による。
Kさんは「回収と販売の面で、行政の支援があれば、もっと仕事をふやせる。でも行政頼みではなく、市民一人ひとりに、この運動の意義を理解してもらうことが大切なんです」と力説する。解放同盟蛇草支部は直接、この取り組みにはかかわっていないが、回収や販売に協力している。
広がる牛乳パックのリサイクル
「パオ」のほか、大阪の部落では、住吉区の障害者作業所「オガリ作業所」と大阪市同和事業促進協議会飛鳥地区協議会(東淀川区)が「ミルクロードの会」に参加している。「オガリ作業所」は「パオ」と同じ様に牛乳パックのリサイクルに取り組んでおり、障害者一六人が作業をしている。ある関係者は「作業所や生協との横のつながりが広がると同時に、障害者と健常者の自然な交流が深まっているのがうれしいという。
飛鳥地区協議会はリサイクルの作業はやっていないが、「ミルクロードの会」の商品販売を引き受けている。また、大阪の部落にある生協を束ねている部落解放大阪府消費生活協同組合連合会(本部生協)も今年からこの商品を取り扱うことになっている。
全国牛乳容器環境協会(東京)の調査によると、紙パックの再生率は二〇%前後で、多くが捨てられている。そして各地で"ゴミ問題"が起こっている。資源の有効利用、リサイクルは二一世紀の最大の課題の一つだ。また、障害者の仕事保障は障害者問題の根本的な課題である。この二つの課題をドッキングさせて取り組んでいる障害者作業所。部落解放運動から発展してきた「パオ」などの活動は、二一世紀の解放運動像を示唆しているといえるのではないだろうか。その根底にあるのは人権を侵害される立場にある人の権利を徹底して擁護していくということである。
牛乳パックのリサイクルの場合、一人でも多くの人が商品を買うこと、それが消費者としての市民誰しもができる"社会貢献"でもあろう。