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茨木市で解放会館条例改正
今日の部落解放運動にあって、全国の中心地の一つといわれている大阪。その大阪で運動の拠点として、あるいはシンボル的存在として解放会館がある。部落解放同盟大阪府連の支部は四七。その大半の地区に解放会館がある。
ところでその解放会館という名称であるが、これは全国的には少数派。全国では隣保館が三六・一%、文化会館・文化センターが一一・一%、解放会館九・四%、福祉館・福祉センター四・三%などとなっている。
大阪府の北部に位置する茨木市。今年の三月議会で、市立解放会館条例を改正した。市内にある三つの地区の解放会館の名称を「いのち・愛・ゆめセンター」と変更、四月一日から新しい名称が使用されている。これまで地区名のあとに「◯◯解放会館」とつづいていたのが、四月から「◯◯いのち・愛・ゆめセンター」となったわけだ。解放会館という名称を他の名称に変更したのは大阪ではこの茨木三地区が初めてで、時代や社会の変化を映したものとして注目されている。
変更の背景
なぜ変更するに至ったのか、ごく簡単にみてみよう。大阪府連は昨年の第四五回大会で、「第三期部落解放運動論」を発表した。内容は多岐にわたっているが、その大きな柱は部落差別を生みだす社会システムの、社会構造そのものの変革を追求していこうという考え方だ。社会システムを変革していくためには、幅広い市民との共同の営みや交流が不可欠だ。従来の「解放会館条例」では「解放会館は同和地区住民の社会的、経済的、文化的生活の向上をはかり、同和問題のすみやかな解決に資することを目的とする」(茨木市条例)と、行政の同和対策の拠点として位置づけられていた。
それが今度の条例改正では「歴史的社会的理由により生活環境等の安定向上を図る必要がある地域及びその周辺地域住民に対して、福祉の向上、地域交流の促進、学習活動を推進し、同和問題をはじめとするあらゆる人権問題の速やかな解決に資するため」となった。端的に言えば、会館をより広く、オープンなものにしていこうというわけだ。「第三期論」に立って、運動の"洗い直し"を行っている大阪府連・支部の要求に、行政が応えたのが今回の改正である。
大阪府連は昨年八月、「今後の解放会館のあり方に対する見解」をまとめた。そのなかで「今後のあり方」として、解放会館を人権行政の拠点施設としていく必要性を強調。大阪府連は大阪府をはじめ全行政に対して「あらゆる施策を人権の視点から見つめ直すこと」を求めている。解放会館をその地域の人権行政のセンターにしていこうというわけだ。言葉を換えて言えば、解放会館等の部落内の公共施設が部落住民のみを対象とする時代ではなくなったということ、人権行政全般に対応する施設として位置づけるということだ。?
住民のニーズ調査
茨木市には大阪府連の支部が三つある。道祖本(さいのもと)、沢良宜(さわらぎ)、中城(なかんじょ)だ。この三支部が結束して今回の条例改正運動に取り組んできた。名称の改称、設置目的、事業内容など大きく変化した条例改正。一言で言えば「人権全般に対応するセンターにする」ということだ。今回の改正にあたって、住民のニーズ調査を行った。そのうちの一つ、沢良宜解放会館が実施した調査結果をみてみよう。調査は昨年夏、会館を中心に約一km圏内の二四町に居住する二〇歳から八〇歳までの住民を対象に行われた。住民の生の声を聞こうと「面接調査」を行い、三五七人の回答をえた。調査は会館職員が行った。
沢良宜解放会館は一九七三年に設立された。その会館に対して、どんな印象や要求をもっているかというのが調査の主な点だ。調査結果をみてみると――。
まず会館の利用について。「会館に来たことがあるか」を聞いたところ、I群(被差別部落)では九一・九%、隣接する周辺地域のII群は五六・四%、それ以外の周辺住民でのúL群では一四・六%の人が会館に来たことがあるとしている。úJ群の利用率が高いのは当然だが、それに比してII群、III群の利用率は低い。特にIII群の来館者が少ないことがはっきりした。
会館はこれまでも講座や集まりなどで周辺地域に開放されてきたのだが、周辺住民のなかでは「解放会館は部落だけの施設」ととらえらている人が少なくないことを示している。周辺住民の"抵抗感"は「解放会館」という名称にもその一因があるのではないかとみられている。調査に当たったある職員は「解放会館なんか私らには関係ないとか、あれは部落の施設で、私らは使われへんやろう」と偏見や誤解による回答もあったという。
「行ったことがない」と答えた人に対してその理由を聞いたところ、「会館が何をしているところかわからない」「利用できないと思っていた」「会館があることを初めて聞いた」と答えた人が、úK群で五三・八%、úL群で六五・八%あった。周辺住民に対する啓発、情報提供をさらに追求する必要があることを示している。
このほか、解放会館への期待についても聞いている。会館の相談業務について「どんな窓口があればよいか」に対して、女性・男性を問わず「高齢者、障害者の介護に関する相談」をあげた人が多かった。また、育児・教育に関する相談、心の悩み相談等が比較的多かった。?
コミュニティの拠点として
こうした結果について同館では「部落差別をはじめあらゆる差別を許さない社会は地域住民が一体となって作りあげていくものだ。近隣の人間関係が希薄になり、核家族化も進行し、高齢化社会が急速に進行している今日、地域の生活の場(コミュニティ)でもっと住民間の交流が必要だ」としている。会館をその拠点にするために、条例改正を行ったともいえよう。
茨木三支部連絡会の事務局長で、沢良宜支部の小西書記長も調査に当たった一人。条例改正の運動を推進してきた一人でもある。
「周辺住民が利用するという点で、名称が一つのネックになっていたことは容易に想像できる。名称を変え、宣伝、啓発を充実すれば、まさに"人権行政の地域の拠点"となるにちがいない。部落住民にとって、周辺住民との交流等を通して、外に目を向ける機会となる。講習などを通して周辺との自然な交流が盛んになる。しかし、こうしたことが住民の自立や自覚につながっていくと思う。これが大きいんです」。
名称変更、事業内容の改革等は、センターの役割を変えていくにちがいない。先にふれた大阪府連の「今後のあり方」の見解のなかで、さらに次のように指摘している。同和行政が今後、人権行政の核となるために、人権行政の最も効果的な施設として、また人権全般にかかわる施設として改革していかなければならない。会館条例の改正、名称の変更等を運動の側から大胆に提起していくことが必要だ。
まちづくり、自立
「人権行政の拠点」としていくために、まず大切なのは「まちづくり」。部落だけのまちづくりから、校区や行政区全体を対象にした、周辺住民とともに進めるまちづくりである。「人権のまち」をつくっていくために拠点の役割をになうのが会館である。
ついで「自立」という点。同和対策事業のうち可能な限り一般対策を追求。自己実現を支援する機能を会館がもつこと。さらに「人権」という視点をより鮮明にし、それを一切の差別に反対する人権行政の拠点としての役割を一層明確にすることの大切さを強調している。
四月一日からの「ゆめセンター」では、住民票の交付もうけつけている。さらに講座・講習等も部落住民、周辺住民に関係なく受講できる。集会や活動にも利用できる。「解放会館を広く一般に開放する」という今回の改正が、運動の側や周辺住民の意識を変えていくことにつながっていくことが予測される。大いに期待したいものである。