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human Rights137号掲載
連載・部落解放運動は今
辻 暉夫(つじ・あきお 解放新聞大阪支局)

新しい風40

情報化への対応

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 あと一年半足らずで二一世紀を迎える。二一世紀は果たしてどんな世紀になるのだろうか、様々なキャッチフレーズが飛びかっている。いわく「人権の二一世紀」「高度情報化の二一世紀」「環境の二一世紀」等々である。いずれも当を得た言葉であると思うが、なかでもハイテクの機器を駆使した情報化社会の到来はすさまじいものがある。「パソコンを知らずんば、現代人にあらず」といった風潮さえ感じるこのごろである。

 かつて読み書きが普及していくなかで、教育から排除されてきた人たちが読み書きができないが故に差別をうけるという結果を招いてきた。今日の「非識字」ともいえる「情報弱者」をなくすための取り組みが求められているともいえる。情報化社会と真正面から向きあい、積極的に活用して「人権社会」の確立に役立てていく必要があるわけだ。

 大阪の部落解放センター内にある大阪府連の事務所と府連各支部を結ぶコンピュータ・ネットワークができあがり、六月一四日本格的にスタートした。「グループウェア」と呼ばれるシステムで、各支部のパソコンと府連を、インターネットを利用したネットワークで結んだものだ。大阪府連四七支部のうち、すでに四〇支部以上で機器の設置、回線工事を終えており、残る支部も近く設置されることになっている。費用は大阪府連のほか、関係友好団体のカンパでまかなった。今後のランニングコストは各支部負担だが、電話代や郵送代よりも少なくてすむものとみられている。

 しかし、このネットワークは単なるコスト削減や情報伝達のスピード化をねらったものではない。高度情報化社会にあって、情報の洪水に溺れることなく、本当に必要な、的確な情報をつかみとるためのものだ。部落解放同盟にとっては、それは「人権確立社会」に向けた情報を発信し、受けるということが基本となる。今回のネットワークはその第一歩といえよう。

 このネットワークでどんなことをするのか。まず第一に情報伝達方法の変化である。これまでは通達をはじめとする必要な情報は、郵送、あるいはFAX、電話等で行ってきた。それが今度のネットワーク網の完成によって、基本的にはすべてこのネットワークを通して即時に各支部へ流れることになった。迅速で確実に情報伝達できるようになるとともに、電子情報で送られるため、各支部では府連からの文書通達等の引用など、情報の二次利用ができるようになった。

 第二に、色々な情報が共有化できることになった。府連の様々な資料・文書をはじめ、他団体や組織の資料のなかから、必要なものを収集、管理し、ネットワーク上で閲覧できるようになったのである。

 時代はまさに「変革と改革」の時代だ。「特措法時代」は終わろうとしており、今日は部落解放・人権確立社会の実現に役立つ様々な一般対策の情報をいち早く知り、入手することが重要となってきている。府連と各支部が手をたずさえてこれらの「情報伝達」に力をつくそうというわけだ。また各支部の先進的な取り組みをこのネットワークを通して伝達していくことにしている。

 第三に、様々な行事、集会、会議、学習会などの日時や場所、内容に関して、ネットワーク上でいつでも簡単に見ることができるようになった。 第四に、このネットワークはインターネットを利用したものなので、府連と各支部間だけでなく、あらゆるホームページからの情報収集やEメールのやりとりも容易にできるようになった。

 このネットワークを使って各支部に情報伝達の実務(パソコン操作等)をしている大阪府連書記局のMさんは「必要で価値のある人権情報を瞬時に全支部に送れることのメリットは大きい。まだスタートしたばかりなので、これからもっと勉強して一層充実させていきたい」と話す。

 大阪府連は今年、情報化時代に対応して総務情報局を新設した。NGOをはじめ市民運動にとってこれから最も力となる一つは情報であろう。いかに多くの人たちに人権情報を伝えるかが、運動の広がりを決定する要素の一つになってきたのである。部落解放運動も然りだ。大阪府連では今度のネットワーク以外にも、それへのそなえを着々と進めている。

 すでにこれまで五支部以上でホームページが開設されている。また大阪府連独自で人権情報を中心とするホームページを今年度内に開設したいとして準備を進めている。このホームページは「日本の人権情報のゲートウェイをめざす」という大きなスケールのものにしたいとしている。部落差別だけでなく、障害者、女性、在日外国人などあらゆる差別問題に関する情報を送ることにしている。

 日本社会に根強く存在する差別的な意識や因習を打破していくためには、私たちの側からこれまで以上に積極的に、幅広く人権情報を発信していく必要がある。大阪府連はその第一歩をふみだしたわけである。

 しかし、「情報化社会万々歳」というように単純にはとらえていない。情報空間で差別事件が続発している。ハイテク機器を利用できない人など"情報弱者"も生みだされてくる。

 さらに今国会に提案されている「通信傍受法案」なるものは、非常に危険なしろものだ。傍受の対象はインターネットにも及ぶことになる。「自由なメディア」がキャッチフレーズなだけに、同法に絶対反対は当然のことだが、それ以上に市民にとって危険な法律だ。「盗聴対象がなし崩し的に拡大される恐れが十分」といわれている。

 イギリスでは犯罪防止のためだとして、全国の街頭のいたるところに監視カメラが設置されていて警察が四六時中、見張っている。「通信傍受法」や監視カメラの社会は必ず人権・プライバシーを侵害することになる。これらも情報化社会の一側面であることを忘れてはなるまい。

 人類は「速さ」や「快適さ」「便利さ」をひたすら追求してきた。それが文明の発達といわれてきた。高度情報化社会も私たちが好むと好まざるにかかわらず、さらに発展することだろう。それが人間の幸せにつながっていくようにしていく以外にない。大阪府連の今回の試みはそうしたものの一つである。?