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九月の敬老の日を前に発表された国の人口統計によると、六五歳以上の高齢者が六人に一人となっている。二〇一五年には六五歳以上の人が四人に一人を占めると予測されており、日本は人類史上、未曾有の高齢社会に突入する。いや、すでに突入しているといってよいだろう。被差別部落の高齢化はそれ以上のテンポで進んでいる。その原因はいろいろあるが、若者の"流出"が一つの要因となっている。これはもちろん差別と深くかかわっている問題である。高齢社会にどう対応していくかは部落解放運動にとって大きな課題であるが、これはもちろん日本が抱える二一世紀最大の課題の一つである。
高齢者のNPO活動を支援?
今夏七月一三日、大阪の部落解放センターに隣接する大阪府同和地区総合福祉センターで、横山ノック知事らも出席してある"応援の集い"がひらかれた。その前日にオープンした「生きがいワーカーズ活動支援センター」の船出を祝い、励まそうとひらかれたものである。支援センターは同福祉センター内に事務局(06・6561・4199)があり、専従スタッフがいる。高齢者の生きがいと就労を結びつけようという支援センターの誕生、活動内容、目的などはこうだ。
大阪府は二年前、老人医療費公費負担制度の見直し案を発表、府民の強い反対をしりぞけて実施にうつした。部落解放同盟大阪府連はこの問題に対して、高齢者の自立と人権を柱とする施策を展開するよう要求。署名運動に取り組み、二万人分を集め府に提出した。府はこれをうけて三一の新たな事業を創設することになり、そのうちの一環として「高齢者の就労的生きがいづくり活動支援方策検討委員会」が発足。一年間にわたる検討の結果、「生きがいワーカーズ支援事業」創設ということが提言された。この事業を促進する役目を負っているのが「生きがいワーカーズ活動支援センター」である。検討委員会の委員で、大阪ボランティア協会理事のHさんは、「支援センターが応援するのはNPO(非営利組織)の活動です。NPOとはお金儲けのためでない活動団体をいうが、この支援センターは高齢者を対象にしたNPO活動を支援する日本で初めてのセンターです」といい、部落解放運動の中から生まれてきたこのセンターに大きな期待をよせている。
この支援センター、具体的にはどういうことをするのか。一言で言えば、高齢者の生きがいづくりと就労(仕事)を結びつけた活動を応援していこうというものである。例えば、弁当を宅配する食事サービス、駐車場の管理、花づくりや菜園、手づくりの品物販売等々。内容に制限はないが、六〇歳以上の高齢者のグループ(一〇人以上)が自分たちで考え、やっていこうという活動を支援する。高齢者グループが「こんなことをやりたい」と同支援センターに相談すれば、センターでは 1.相談員による助言、指導を行う 2.事業化にあたって研修を実施する 3.経営、会計、労務などの専門家を紹介、派遣する―などの応援をする。そしてグループの活動場所の整備、備品の購入などに必要な経費を一グループにつき一〇〇万円を限度に助成する。要するに高齢者でグループをつくって、何か新しい事業(営利を目的とするものは除く)を始めようという人たちを、物心両面から応援していこうというわけだ。
部落だけでなく幅広く
これは何も部落を対象とした事業ではなく、府民なら誰でも活用できる。府はセンター発足に先立ち昨年、実験的にモデル事業を大阪の三地域で展開した。いずれも被差別部落のグループで、配食サービス、花づくり・菜園、駐車場管理という事業内容だ。最初にふれた"応援の集い"で、この事業に参加したある女性は「知事さんに今お贈りした花は今朝、畑でとってきたものです。私たちは花づくりを通して生きがいと楽しみ、健康保持を願っています。美しく咲いた花を見て、"やって良かった"という実感がわいてきました」と話していた。
また配食サービスと生きがい菜園をやっているある男性は「がんばっていくなかで、ムラに高齢者の姿がよく見られるようになり、高齢者が福祉のために生きがいをもってやっているのが見えてきた」といっている。
今年度の事業は現在のところ、すべて被差別部落のグループからの申請だ。生きがいワーカーズ支援事業がまだあまり府民に知られていないことによるものだ。この事業の"生みの親"でもある大阪府連の各支部でまずスタートを切る。そこで事業を"成功"させると同様に、一層PRしていくことによって、広く府民に知ってもらうことが第一。
高齢者にとって、健康や経済問題はもちろん非常に大きな関心事だが、長い老後を充実して生きていけるかどうかは、生きがいをもっているかどうかに大きくかかっている。これは被差別部落の人であろうが、そうでなかろうが関係のないことだ。部落解放運動からこの事業は出発したものの、対象はあくまでも府民全体である。その意味で今年度から新しくこの事業がスタートしたということをできるだけ多くの人に知ってもらうことが目下の急務だ。
支援センター専従スタッフのSさん(六一)は「生きがいと仕事という二つのことをかなえるこの事業、存在が知られれば、必ず利用者はたくさんいるものと思う。知ってもらうことがまず第一。そしてこちらからも魅力的な仕事を提案できたらいいなと思っています」と語る。
高齢者自身が実行する
一方、部落解放同盟大阪府連の富田一幸行政闘争本部副部長は「この事業は従来の行政が考え、与えるという行政主導でなく、高齢者自身が考え、工夫し、決断し、実行するという"自立の思想"を根本にすえていることが大きな特徴だ。高齢期をいろんな生きがいをもって過ごすことの重要さをすべての人に訴えたい」といっている。
介護保険の認定作業が一〇月から始まった。何しろ初めての試み、試行錯誤が続くだろう。高齢社会とも初めての出会いだ。これといった処方箋はないのが現実だ。今後も苦闘は続く。支援センターはその解答の一つだ。