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human Rights143号掲載
連載・部落解放運動は今
辻 暉夫(つじ・あきお 解放新聞大阪支局)

新しい風46

「人権情報ネットワーク ふらっと」誕生

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情報化への積極的対応

 二〇世紀最後の年。この百年間における科学技術の発達はめざましかった。科学技術の発達によって私たちの生活がこれほど変化した世紀は過去になかっただろう。科学技術の発達という点に限ってみれば、今世紀のそれは過去数千年にも匹敵すると言ってよいかも知れない。しかし、快適さや速さ、便利さを求めてやまない欲望の肥大化は、大量生産、大量消費、大量廃棄という社会をうみだし、この宇宙船地球号が環境破壊によって"沈没の危機"に直面していることも事実である。科学技術の発達が人間の本当の幸せや環境保護になるのか、私たちは常に自らの生活に照らしあわせて考えてみる必要があるだろう。

 それはともかく、二一世紀はどんな世紀になるだろうか。様々な予測がマスコミをにぎわせているが、「高度情報化の世紀」になることだけは間違いあるまい。「コンピューターの発明は二〇世紀最大の発明である」という科学者がいる。その当否は別にして、瞬時に世界のどことでも情報をやりとりできるインターネットの普及は二一世紀がまぎれもなく「高度情報化の世紀」であることを示している。

 わが国でもNGO、NPOをはじめとして市民団体が独自にホームページを開設することが"時代の風潮"になっている感すらする。自分たちの活動や考え方をできるだけ広く知ってもらうこと、同時に他からも有益な情報をえることは極めて大切だ。その反面、露骨な差別言辞や差別を扇動する情報が電子空間をとびかっているのも事実だ。だからこそ情報化社会に積極的に参加し、「人権の二一世紀」確立に向けての対応が求められている。

  気軽に幅広い人権情報を  昨年一一月一一日、人権問題に焦点をあてたホームページ「人権情報ネットワーク ふらっと」が開設された。部落解放同盟大阪府連が中心となって開設したもので、「ふらっと」は英語で「水平」を意味しており、また気軽にふらっと活用できるようにという思いをこめて名づけられた。

 では「ふらっと」はどんなホームページなのか。スタート時のものは、まず最初に人権問題に取り組んでいる著名人らに「ふらっと」への期待を語ってもらう「ふらっと」への手紙。第一回目はアムネスティ・インターナショナル日本支部の副支部長、イーデス・ハンソンさんが「新しくとても大切な世界を知る場にこのホームページがなることを祈っています」とメッセージを寄せている。そのあとはメインの「ふらっとNOW」。当初は高齢者、障害者、男女共生をテーマにスタート。連れあいを介護するため昨年辞任した大阪府高槻市前市長の江村利雄さん、長野パラリンピックの金メダリストの土田和歌子さん、服飾評論家の市田ひろみさん(男女共生の問題で)にインタビューしたもの。三人がそれぞれの思いや願いを平易な語り口でのべている。

 また今年四月からの介護保険をマンガでわかりやすく説明した「上手に利用したい介護保険」、家庭内暴力をとりあげた「ドメスティック・バイオレンス」、障害者施設の建設をめぐる「施設コンフリクト」、男女雇用機会均等法の解説などをのせている。?

 このほか「ふらっとトピックス」のタイトルで、様々な人権問題に関する最新の情報を掲載している。また、人権問題(福祉問題もふくめ)に悩んでいる人、困っている人はどんなところに相談したらよいのか、その窓口の電話番号を紹介しており、北海道から沖縄まで対応できるリンク集となっている。

共に考えるために

 毎月二〇日前後に内容を更新していく予定で、できるだけ「新鮮で魅力的な話題」をとりあげていくことにしており、近く部落問題も掲載する予定だ。このホームページつくりに最初からかかわってきた大阪府連教宣部のYさんは「部落解放同盟は部落問題だけでなく他の人権問題にも敏感であることをこのホームページでわかってもらえたらと思います。最も大切なコンセプトは、見る人も発信する側も共に考えるような情報を発信するという点です」という。

 このホームページ、運営していくにはお金がかかるし、何よりも"つくり手"がいる。まず運営は大阪府連が企業等に呼びかけて設立された「ニューメディア人権機構」が当たる。代表に武者小路公秀・元国連大学副学長が就任。運営コストをどうまかなっていくのか、前途は厳しいが、何としても成功させたいと意気ごんでいる。"つくり手"は大阪府連書記局のメンバーをはじめ、フリーライターなどが加わり、締め切りに追われながらの奮闘が続いている。

 昨年一二月一〇日の世界人権デーには、日本で最大の検索サイト「Yahoo Japan」の「今日のオススメ」のコーナーで「ふらっと」が紹介された。予想以上の反響で、この日一日だけでのべ三七〇〇のアクセスがあった。アメリカ、カナダ、ブラジル、シンガポール、トンガなどからもアクセスがあった。?

問われる情報の質

 大阪では各支部でもホームページを開設するところがふえている。大阪府連が把握しているところによれば、昨年末現在で九つの支部でもっている。

 また大阪府連は昨年夏、大阪府連の事務所と府連全支部を結ぶコンピューター・ネットワークをつくった。「グループウェア」と呼ばれるシステムで、各支部のパソコンと府連をインターネットを利用したネットワークで結んだものだ。これによってこのネットワークを通して情報を即座に支部、府連間で送れる様々な情報を共有化できるようになった。必要な情報を収集、管理し、ネットワーク上で見ることができる行事、集会、学習会などの日時、場所、内容等をいつでも簡単に知ることができるインターネットを活用しているので、あらゆるホームページからの情報収集やEメールのやりとりが容易になった―などの利点があげられる。

 しかし、ホームページやグループウェアの開設は単に情報量をふやしたり、伝達のスピード化をねらったものではない。何よりも問われるべきは情報の質である。高度情報化社会にあって、情報の"洪水"に溺れることなく、様々な人権問題にかかわる本当に必要な、的確な情報をえることが重要だ。ホームページではこれから毎月、記事を更新していかなくてはならない。部落解放運動に新たな地平を切りひらくため、関係者の皆さんの奮闘を願ってやまない。  なお「ふらっと」のアドレスは http://www.jinken.ne.jp