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大阪で五月に実態調査
自治体や国による「同和」事業が本格的に始まったのは、「同和対策事業特別措置法」が制定された一九六九年からである。それから今日まで、程度の差はあるものの全国で「同和」事業が展開されてきた。住宅建設など環境改善を中心とする事業の進展は被差別部落の姿を大きく変えてきた。そしてこの間、「部落はどう変わったのか、残された課題は何なのか」をさぐるために、全国規模で、あるいは自治体ごとに部落実態調査が行われてきた。
大阪では一九九〇年五月、大阪府と各自治体が主体となり、部落解放同盟大阪府連が協力して実施された。その五年後の九五年には、大阪府連独自で同盟員の「意識・ニーズ調査」を行った。そして今年五月、大阪では「二〇〇〇年部落問題実態調査」が行われる。「人権の二一世紀」にふさわしい新たな運動の展開が求められている。そのためには部落の実態や市民の意識を正確につかむことが不可欠だ。大阪では一〇年前と同様、自治体と大阪府連が共同で実態調査にあたるが、全国的には実態調査を実施するところはほとんどないと聞いている。そこで大阪の実施計画を紹介してみる。他の参考になれば幸いである。
差別の原因に迫る
九〇年調査は部落と部落外との経済的格差などを明らかにし、その格差是正を行政に求めることに重点があった。しかし今回の調査は格差の問題以上に、差別の原因に迫ることを最重点としているところに大きな特徴がある。
今回の調査の第一のポイントは次の点にある。これまでの「同和」行政は「同和」対策事業による地区住民の生活改善、差別事件への対応、市民啓発が三本柱だった。しかし部落差別の現実は、部落出身者の心理面への影響や市民の日常生活における部落問題とのかかわり(市民の加差別の現実)にもあらわれている。この二つの面の実態も解明しようというねらいである。
第二のポイントはこれまでの格差是正型にかわって、新たな「同和」行政の目標をうちたてることである。部落外との格差をなくすことだけが部落解放ではない。部落出身者が自立(自己実現)できる社会システムを構築すること、どんな社会システムがあれば、どんな支援があれば自立できるのかを明らかにすること、これを「同和」行政の新たな座標にするための調査である。
第三のポイントは部落差別をはじめ一切の差別を許さない社会の実現にむけた人権行政確立をはかろうというねらいである。大阪の全自治体の旗印として人権行政をすえ、すべての政策を人権の観点から洗い直していくことを迫るための調査でもある。人権行政確立の課題を明らかにしようというわけだ。
第四のポイントは、今回の調査に差別事件が明確に位置づけられたことである。これまで重大な差別事件は別にして、日常的に起こっている差別事件をトータルに集約、分析し差別を生みだしている社会的背景を明らかにするような行政調査はなかった。差別事件の分析なくして人権行政の確立は不可能であることを考えたとき、差別事件が行政調査の対象になったことの意義は大きい。
調査は部落内、部落外、行政調査の三分野で行われる。部落内調査のポイントは、これまで生活実態に限定されていたのを、被差別の心理的実態にまで迫ること、また数字であらわせない差別の実態をヒアリング調査で明らかにしていこうという点である。さらに約一万人の市民を対象に意識調査を同時に実施する。この二つに加えて、行政施策の課題などを明らかにするための行政調査がある。
地元あげて調査に協力
調査成功にむけて一年近く周到な準備が進められてきた。昨年六月には大阪府調査委員会が設置された。行政関係者をはじめ学識経験者、大阪府連のメンバーなどが討論を重ね、これまでのべてきたようなねらいで調査することを確定。大阪府以外の各自治体にも「実態調査推進本部」が設置されてきている。また大阪府連各支部でも、支部関係者をはじめ町内会や商店会、民生委員協議会など様々な人たちで構成する「地区実行委員会」が結成されつつある。
例えば一月末に結成された西成地区実行委員会。西成地区は全国で最も人口が多い被差別部落。抽出による調査対象者は一六〇〇人にのぼる。調査員(行政)と協力員(地元)が調査に当たる。調査は調査票を手渡し、回答してもらったあと回収するというスタイルで行われる。従って調査員と協力員がどれだけ熱意をもって対象者にきちっと回答してもらえるよう訴えるかに成否がかかっている。同時に地元住民全体の協力がなくては成功はおぼつかない。西成地区実行委はこうした点を配慮して、西成支部をはじめ、地区協議会、連合町会、民生委員協議会、解放会館など幅広い層で構成。地区のすべてで調査がスムーズにいくよう各界代表が委員に選ばれている。
九〇年調査は家族全員を対象にした世帯調査であった。今回は個人調査である。また調査対象者自身が記入するスタイルになっている。「どう書いてよいかわからない」「めんどくさい」等々の理由から、未記入だったり、まちがって書いてしまうというようなことが危惧される。従って調査員と協力員がこまめに調査対象者のもとに足を運ぶこと、どんなことでも質問や疑問にこたえる「よろず相談係」のようなものを設置することなどが求められている。
同和行政の再構築のために
調査は原則として五月一五日から三一日までの二週間余。決して容易ではない今回の調査を成功させることができるかどうか、大阪府連はもちろん行政等の"力量"にかかっている。
大阪府連はこの間、「同和」行政を人権行政の一環として再構築していくことを大阪府政に位置づけてきた。先にもふれたように、府の諸施策を人権の視点に貫かれたものになっているかどうかを点検していく作業を進めている。もちろん府政だけでなく、すべての市町村に人権行政の確立を求めてきた。全自治体に人権行政を根ずかせる新たな出発点として、この二〇〇〇年調査はある。
「同和」事業が本格的にスタートしてから三〇年になる。当然、これまでの手法を転換する時期を迎えており、大阪では事実数々の「変革」をなしとげてきた。二〇〇〇年調査は、二一世紀をみすえての「変革のための調査」でもある。