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human Rights149号掲載
連載・部落解放運動は今
辻 暉夫(つじ・あきお 解放新聞大阪支局)

新しい風52

人をつなぐ「ほっとライン」

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住民参加の教育運動

 大阪府茨木市。大阪と京都のほぼ中間に位置し、人口約二六万人。被差別部落、沢良宣(さわらぎ)地区は市の南部にあり、約四○○世帯。このうち部落解放同盟員で"地の人"は約一八○世帯。半数以上がいわゆる"流入者"。地元の葦原(あしはら)小学校児童約八○○人のうち、"ムラの子"は三○人ほどである。典型的な都市部落だ。

 この沢良宣地区で七月一日、「子育て・子育ちほっとライン」が開設した。解放同盟沢良宣支部を中心にして、インターネットのホームページ、ミニFMラジオ放送を駆使して保育、教育の問題に取り組もうという試みだ。

 IT(情報通信技術)を活用して、住民参加の保育、教育運動をつくりあげていこうというねらいである。果たして住民の間にどれほど受け入れられるか、成果を上げることができるか、部落解放運動の"新しい挑戦"として関係者の注目を集めている。この「ほっとライン」、実は社会福祉医療事業団の子育て支援基金で実施されている事業だ。

 同事業団は一九九○年、国からの出資によって設立され、現在は「長寿・子育て・障害者基金」の三分野で、全国の民間団体などに基金を提供している。解放同盟大阪府連は近年、時代の変化に対応すべく「一般対策」の積極的な活用を提唱。昨年、活用できる一般対策としてどんなものがあるかの学習会をひらいた。そのなかで同事業団の支援基金が紹介され、従来から教育間題に積極的に取り組んできた沢良宣支部は早速、子育て支援基金にとびついた。昨年秋に事業申請、今春認可の知らせが届いた。基金は最高額の二○○万円。ほっとラインのためのパソコン、留守番電話、ファックスなどの購入にあてた。

子育ての悩みがら行動へ

 このほっとラインが取り組んでいることは1.子育て・子育ち情報、教育情報をホームページやミニFMラジオで発信する2.パソコンのメール、ファックス、留守者電話を使って、子育て、子育ちに関する相談をうけつける3.地元で課題となっていることをテーマにしたシンポジウム等を開催する。従来の会場に来た人以外にも、ほっとラインを通してその内容を伝える−などが主である。子育て、子育ちに悩みや不安、疑問を持つ人たちに幅広い情報を提供し、共に考え、共に行動しようというわけだ。

 こうした活動を通して部落と周辺住民との交流が深まり、それがひいては部落問題の正しい理解へとつながっていくこと、それが関係者の願いだ。このほっとラインを運営しているのは「葦原小学校子育て(ち)支援推進会議」で、事務局は沢良宣いのち・愛・ゆめセンター(旧解放会館)にある。この推進会議は今年五月に設立された。葦原小学校医子ども会連絡会、同校区連合自治会、小、中学校とそのPTA、保育所、沢良宣支部、沢良宣保育・教育運動をすすめる会、ホット・ウェーブ七七五(ミニFMラジオ局)など一八の組織にのぼる。

 同校区の保育、教育に関わる、関心のある、ほとんどの人が参加しているといってよい。ほっとラインがスタートする前、事務局でビラをつくり、連合自治会に配布するよう依頼したところ、快諾してくれた。また推進会議のことを積極的にPRしてくれている組織も少なくない。

地区内・外の共通課題にとりくむ

 事務局を担当しているのは「保育・教育運動をすすめる会」。この会は今年四月結成された。大阪では保育・教育に関する組織はこれまで同和対策事業を受けている人たちでつくる「守る会」がほとんどだった。沢良宣もそうだったが、二一世紀をみすえた教育運動が必要ということから「保育守る会」「教育守る会」を発展的に解消。事業を受給しているかどうかに関係なく、誰でもはいれ、運動促進の観点から新たに「すすめる会」を結成したのである。

 この会が特に強調しているのは周辺地域との交流、共通の課題を通しての運動の推進だ。「すすめる会」の橋井幸子会長は「地区内に住む流入してきた人たちの間にはまだ差別意識があることを実感する場合がある。また地区周辺の人たちの差別意識も依然として解消していない。連動の力で確かに一定前進はしているが、これをもっと確かな、大きなものにしたい。不登校、いじめ、非行など周辺の人たちが抱える悩みや問題は部落と変わりない共通の課題だ。それを共に考え、交流していくなかで部落問題への理解は深まるだろうし、子育て、子育ちにいい結果を招いてくれれば」と話す。

地域密着の情報発信

 ホームページと並んでほっとラインのなかで重要な役割を果たすのがミニFMラジオ放送局「ホット・ウェーブ七七五」。昨年九月に沢長宜いのち・愛・ゆめセンター内に開局した。ミニFMラジオとは、非常に微弱な電波(ホッハ・ウェーブは0.03ワット)を用いて、半径三、四○○メートル内で聞くことができる放送のことである。沢良宣支部が中心となって立ち上げた。

 「人権を軸にした人と人との豊かな関係づくり」や「地域の人々への情報発信と交流の促進」など。大阪の部落では大阪市内の生江地区についで二番目のミニFM局だ。現在月曜から土曜まで毎日朝一○時から夜九時まで放送している。地区内外の施設、市政、地域情報、イベント案内、保育・教育情報などのほか音楽、演劇、映画、スポーツなど内容は盛りだくさん。現在DJが五四人、運営するスタッフ六人。DJは地元の二人以外は地区外の人たち。和歌山や西宮、大阪市など他から交通費も自腹を切ってやってくる。この秋には日曜日も放送できるところに移転する予定で、近い将来に葦原校区全世帯で聞くことができるようにしたいとしている。このホット・ウェーブでも子育て、子育ちに関する情報を流す。だからホームページとミニFMが情報発信の主な担い手というわけだ。

 ほっとラインはまだスタートしたばかりなので、どれほど利用されているかは定かでない。しかし子育て、子育ちの相談に応じるというのだかち、様々な悩みや心配を抱えている親や子どもたちから相談がたくさん寄せられることは十分に考えられる。相談には、基本的に推進会議のメンバーである教師やカウンセラーが当たることになっている。

 それでも対処できないときは外部の専門家に依頼する。ほっとラインは相談の"回答者"を責任もって紹介するという役割りをするわけだ。ほっとラインの実務を担当しているHさん(沢良宜支部執行委員)は「ほっとラインが地区内外の壁をとりはらって、交流・共生のまちづくりに役立つことを願っている。保育、教育はみんなの共通の関心事。必ず大きなカになってくれると思う」という。IT社会は急速に拡大している。部落解放運動もそれに積極的に対応していく必要があるだろう。もちろんIT社会の負の側面も見逃さずに。