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human Rights150号掲載
連載・部落解放運動は今
辻 暉夫(つじ・あきお 解放新聞大阪支局)

新しい風53

差別身元調査事件のその後と「ILO府民会議」の結成

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 大阪の調査会社が差別身元調査を行っていたことが発覚、摘発されてからこの七月で丸二年。これを機に就職差別や差別身元調査をなくしていくために、雇用と職業での差別禁止を謳った「ILO111号条約の早期批准を求める大阪府民会議」が結成された。全国で初めてであり、就職差別撤廃に向けた法的整備を大衆運動によって促進していこうという試みとして注目されている。

改善されなかった身元調査の実態

 大阪府は二年前の七月、大阪市内の二つの調査会社を「部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例」違反の疑いで立入り調査した。二社とも差別身元調査をしていたことを認めた。

 その後、大阪府や部落解放同盟大阪府連の調べによって、差別身元調査のおぞましい実態がつぎつぎと明らかになった。調査会社は企業からよせられた就職応募者の履歴書にもとづいて調査。調合結果をA、B、C、Dの四段階にランク付けして企業に報告していた。履歴書を勝手に調査会社に流した企業はプライバシー保護の観点から大きな問題がある。が、それ以上に許せないのはもちろん調査内容である。

 大阪府連の事情聴取によると、調査員は近辺の聞き込みから、そこが被差別部落とわかると、その時点で調査をストップし、部落出身であることを示す「※」という印を履歴書に書き込んだ。そして「調査不能」という回答が依頼企業に報告された。また、ある女性の場合は、人物評価のあとに「○○町の皮屋」「※」と記入されていた。五年間で判明しただけでも、こうした部落差別調査は約十件に及んでいる。

 部落差別調査のほかにも、宗教、民族、支持政党、父の職業、組合活動歴の有無など、実に広範囲にわたって調べあげていたことがわかった。調査会社の顧客リストにのっていた企業、法人等は1409社にのぼる。なかには大阪府や大阪市の外郭団体、公共性の高い福祉法人や医療法人も含まれていた。企業等が調査会社に支払った金は総額で何千万というところが少なくなかった。しかも契約、領収書などもズサン極まりなかった。

 全国の部落の地名を網羅した「部落地名総鑑事件」が発覚したのは1975年。それから四半世紀もたつが、事態は一向に改善されていなかったことがはっきりした。大阪では1996年にも調査会社が部落差別調査を行っていた事件があった。そして今回の事件のことなどを重ねあわせると、差別身元調査は今日もなお根強く残っていると断せざるをえない。

各界による新たな努力

 就職や結婚に直結している差別身元調査。根絶するためにはどうすればよいのか。大阪府連はこの二年間、精力的に各界に働きかけてきた。その結果、知事、大阪市長名で公正な採用選考を要請する文書を107の経済団体や業界団体に送付。大阪商工会議所、関西経済連合金(関経連)など在阪経済五団体が公正な採用選考と部落差別の撤廃を訴えるコメントを発表した。

 さらにいくつかの制度改正、組織結成などがはかられた。まず昨年12月、職安法が改正され、差別につながる個人情報の収集をしてはならないと規定された。また昨年大阪府などの呼びかけで「公正採用・調査システム検討会議」が発足した。行政、経済界、学識経験者、調査業協会などがメンバーとなり、年内に採用選考のガイドラインをつくることになっている。昨年二月には在阪経済五団体による「同和・人権問題連絡協議会」が設置された。

 こうした各界の努力によって一歩ずつ前進しているが、依然として大きく立ちはだかっている壁がある。それはILO111号条約を日本がまだ批准していないという問題だ。ILO(国際労働機関)は国連の専門機関。政府・労使の代表によって構成され、労働条件等について各国に勧告する。その111号は「雇用及ぴ職業についての差別待遇に関する条約」という名称。その第1条で「人種、皮膚の色、性、宗教、政治的意見、国民的出身又は社全的出身に基づいて行なわれるすべての差別」を禁止することを謳っている。加盟国は差別的取り扱いの禁止に向けた国内法の整備が義務づけられる。すでに130力国以上が加盟しており、未加盟の日本では”人権後進国”のそしりをまぬがれない状況に追いこまれているといえよう。

 この七月五日、大阪国際会議場で「採用と人権を考える府民フォーラム」がひらかれ、その場で「ILO111号条約の早期批准を求める大阪府民会議」の結成が宣言された。集会は企業、経済団体、行政、労組、宗教、教育、市民運動、解放同盟などから三千人を越す人たちが参加、満席となった。主催者を代表して大阪府連の松岡委員長、太田知事、磯村大阪市長、関西経営者協会の奥井会長があいさつ。基調報告や記念講演のあと、府民会議の結成が高らかに宣言された。同会議は代表に奈良教育大学の中川喜代子名誉教授を選出。集会実行委員会に加わった大半の団体が同会議に加盟することになっている。

 ちなみに集会実行委加盟団体は下記のとおりである。いかに幅広く各界から参加しているかがわかる。府民会議が追求する主な活動は‡@条約批椎を求める諸活動‡A公正な採用選考システムづくり‡B雇用・職業における差別撤廃に向けた啓発活動の推進などである。
 国際条約の批准を目的とした組織の結成、それも一自治体レベルだ。これが全国に波及し、批准が早期に実現することを願いたい。

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