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human Rights151号掲載
連載・部落解放運動は今
辻 暉夫(つじ・あきお 解放新聞大阪支局)

新しい風54

全国初の大阪人権議員フォーラム

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 「女らしさ」「男らしさ」という言葉に象徴されるように、固定的な性差観による性的役割分業論は今日もなお根強くある。それが性差別をうみだし、男女平等、男女共生社会の実現を阻む一つの大きな要因となっている。そこで昨年六月、男女が社会のあらゆる分野に対等に参加しようという「男女共同参画社会基本法」が制定された。同法は自治体での男女共同参画推進の必要性をうたっており、この制定を機に自治体で「男女平等(共同)参画推進条例を制定する動きが活発化している。すでに東京、埼玉、山口県で制定ざれ、検討中のところも少なくない。大阪府もその一つだが、大阪では部落解放運動から発展した「女性共闘」が制定運動の中心を担っているのが特徴だ。

 部落解放大阪府反共闘合議の女性連絡会議の村上シヅ代表(婦人民主クラブ)らがこの七月、大阪府庁を訪れ、同連絡合議がつくった「大阪府男女平等参画推進条例案」を提出、早期制定を要請した。またそれ以前には、大阪府男女協働参画社会づくり審議会がだした中間報告に対して「平等条例を制定することを明記せよ」などと要望しており、条例制定運動の先頭に立ってきた。

 女性連絡会議が作成した条例案には、東京や埼玉の条例には盛りこまれていない視点がある。それはまず第一に「性別により差別されたり、固定的性役割を強制されることなく、人間としての尊厳が侵されることのない、人権が尊重ざれ、あらゆる活動にだれもが対等に参画できる男女平等の社会実現のために」と、性差別と基本的人権の尊重を明確にうたっている点だ。

 さらに第三条の「性別による権利侵害の禁止」では、あらゆる場において性別を理由とする差別的取り扱いをしてはならないとしたうえで「とりわけ高齢女性、障害を持つ女性、ひとり親家庭、被差別部落女性、在日外国人女性など社会的不利益な立場におかれている人々の人権侵害には配慮すべきである」と、被差別の、マイノリティーの女性の権利擁護を明記している。これは他の条例にはない。部落解放運動と共に歩んできた同連絡会議ならではの提起といえよう。

 また「リプロダフティブ・ヘルス・ライツ」(性と生殖に関する健康・権利)の項では、「この権利は女性の身体の自己決定権のみならず、人生の選択権を含めた基本的人権である」と位置づけ、他の条例にはない「基本的人権」の視点を明確にしている。

 このほか第四条で社会慣行、社会慣習の見直しに具体的に言及しているのも特徴だ。そのなかで「ジェンダーに基づく固定的な性役割、性差別を再生産する家庭、学校、職場、地域社会での社会慣行、社会慣習を撤廃し、メディアの役割、政策などの社会システムを見直していかなければならない」と、メディアの役割と責任についても言及している。

 二○条から成るこの条例案、果たしてこれが実現するかどうかはまだわからない。大阪府は今、審議会で議論を進めているところだ。条例を実のある、実効性あるものにしていくためには、制定検討の課程から市民運動の声を反映させていかなければならないといわれている。運動なくして、役所と議会だけでつくったものは、あまり有効性がないというわけだ。そうした意味からも、条例制定を求める運動を立ち上げ、条例案まで提示した女性連絡会議の果たしてきた役割は大きい。同会議は大阪の女性運動、部落解放運動にかかわるなかで学んできたことを、この条例案づくりにいかした。何回も学習会や討論会を重ね、案をねった結果である。

 この女性連絡合議の結成は、ある女性差別事件がきっかけだった。一五年ほど前、紀伊国屋書店が社員採用で、「チビ・ブス・カッペ(田舎著)・メガネの女性は採用しないように」というマル秘文書が本店からだされていたことが発覚した。部落解放府民共闘では、重大な女性差別事件としてとりあげることになったが、当事者である女性が闘いの先頭に立たなければならないということで、府民共闘のなかに女性連絡会議が結成されたのである。当初、紀伊国屋は「皆さんと会う必要はない」「そのような文書はだしていない」の一点張りだったが、女性連絡合議の粘り強い闘いによって、謝罪文を提出させ、女性のブックコーナーを設けさせた。

 これを契機に女性連絡会議は、大阪における女性解放運動、性差別反対、人権擁護運動の一翼をになうようになった。現在、同会議には連合大阪、自治労、大阪教組、大阪市水道労組、大阪市交通労組、日本婦人会議、婦人民主グラフ、部落解放同盟大阪府連などが加盟している。

 今度の条例案について山中米子連絡会議事務局長(解放同盟大阪府連女性部長)は「部落解放運動で学んできたことを、条例案づくりにいかしたつもリです。マイノリティー女性の権利擁護をうたっている点にそれが端的に示されていると思います。全国で初の女性知事を誕生させた大阪で、全国一質の高い条例が制定されるようもっと盛り上げていきたい」といっている。

 一方、大阪府連も「男女共同参画社会基本法」の制定などをうけて、今春「男女平等社会にむけた素案」をとりまとめ、公表した。そのなかで

1. 女性の人権を確立する社会システムづくりにむけた六つの具体的目標
2. 「男女平等条例」の制定
3. 行政から独立した強力な権限を持つ「人権擁護・救済−苦情処理機関」をつくらせよう
4. 女性の自己実現を阻む差別を撤廃しよう
5. 個としての自立を妨げている慣習・制度を廃止していこう

などについて具体的に提起。さらに大阪府連における女性の参画推進の重要さを強調。具体的には

1. 府連に「女性施策推進プロジェクト」を設置する
2. 府連の意志決定機関への女性の参画拡大をはかるために、二○○五年までに府連執行委員、府連委員の女性の割合を二○%まで高める
3. 女性リーダー養成研修講座を開設する

などをかかげている。この素案をもとに各支部で討議し、来年初めには「大阪府連の提言」として決定することになっている。

 一切の差別を許さない−これは部落解放運動の原点である。が、性差別の意識や考え方は幼いころから頭と心にすりこまれていて、それをなくすのは容易ではない。上から与えられたのではなく、運動によって獲得した条例の制定は、性差別の厚い壁を打ち壊していく一助になろう。