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human Rights153号掲載
連載・部落解放運動は今
辻 暉夫(つじ・あきお 解放新聞大阪支局)

新しい風56

NROの船出

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IT時代に官民一体で対応

 世はまさにIT(情報技術)革命の時代。ITの二文字がマスコミに登場しない日はない。インターネットで世界中のどことでも、情報を瞬時に、大量に発信、入手できる。インターネットはIT時代の“旗手”だ。IT機器を使いこなせなければ“現代人にあらず”といった風潮さえ感じる。二一世紀が高度情報化社会であることは疑いようもない状況ではある。

 しかし同時にIT時代には当然“影の部分”が存在する。それは現に起こっている、電子空間を利用しての差別言辞や差別を扇動する事件である。また“情報の洪水”に流されたり、IT機器を使いこなせない“情報弱者”の出現もある。

 人権問題をはじめこうした問題に取り組んでいこうという「ニューメディア人権機構」がこの九月、大阪に誕生した。略称はNRO(Newmedia Human Rights Organization)。部落解放同盟大阪府連が各界に働きかけて設立したものだ。

 これに先立ち約一年前、大阪府連が中心となってホームページ「人権情報ネットワークふらっと」を開設した。「ふらっと」は英語で「水平」を意味しており、同時に、ふらっと気軽に利用できるようにという思いをこめて、名づけられた。「人権をもっとやさしく、もっと身近に」をモットーに、高齢者問題、障害者問題、男女共生問題、部落問題等、人権に関する情報を広く、タイムリーに発信していこうというものだ。これまでに黒柳徹子さんがメッセージをよせているほか、長野パラリンピック金メダリストの土田和歌子さん、タレントの遙洋子さん、高齢者問題の専門家、部落問題では永六輔さんらが自分の思いや意見を「ふらっと」上でのべている。また人権にかかわる最近のトピックスや情報をのせている。毎月新たな情報を加えて発信しており、現在月に平均二万五〇〇〇のアクセスがある。

 この「ふらっと」を核にしてより一層幅広く活動を展開しようと、官民一体となって設立されたのがNROである。設立呼びかけ人は、武者小路公秀(元国連大学副学長)、太田房江(大阪府知事)、磯村隆文(大阪市長)、前田修(連合大阪会長)、山口源治郎(人権啓発推進大阪協議会長)、松岡徹(部落解放同盟大阪府連委員長)の六氏。大阪府連は行政、労組、企業、宗教、教育、人権団体、社会福祉協議会や病院協会など、民間団体などに幅広く呼びかけ、約六〇団体もの賛同を得て発足した。

 設立総会には行政、企業、宗教、教育、民間団体などから約二百人が出席。呼びかけ人の一人太田知事は、IT革命の“光と影”にふれ、ネット上の人権侵害に対する法規制の必要性を強調すると同時に、ネット上での人権意識の向上をはかっていくうえでNROに対する期待は大きいとのべた。

人権情報のゲートウェイ

 NRO設立の目的はどこにあるのか、その趣意書からもう少し詳しくみてみよう。

 まずその目的を「電子空間の中で、また電子空間を活用して様々な人権問題の解決に貢献すること」とし、「人権が侵害されている個人だけでなく、あらゆる人々が活用できる国際的な視点を持つ人権情報のゲートウェイ的なサイトを目指す」とうたっている。差別言辞や差別扇動に対して、教育・啓発活動を通しての人権擁護に取り組むという趣旨だ。

 また人権研究の分野において多くの研究成果が発表されている今日、それをスピーディーに、広く活用するために情報ネットワークは大きな役割を果たすとしている。

 さらに「情報弱者」を生みださないための取り組みを進めなければならないと強調している。次代の識字は単に文字の読み書きだけでなく、メディア・リテラシーといわれている。これは多様な情報を批判的・主体的に分析する力であると同時に、多様な形態でコミュニケーションをつくり出す力を獲得することを指している。これからの「読み書き算盤」に相当するものであり、「情報弱者」をなくしていくための取り組みも行っていくとしている。

 また国境を瞬時にして越えるインターネットによる情報の発信は、民主主義、人権の伸長に大きく寄与することができる点を力説し、最後に「人権問題が社会の進歩、科学技術の進歩とともに、より高度で複雑で重大な問題になっていることに気づき、それへの対処を急がねばならない」と結んでいる。

問われる情報の質

 それではこのNROは具体的にはどんなことをするのか。まず第一にホームページ「ふらっと」の内容をさらに充実させ、世界に向けて人権情報を発信することだ。次に「ふらっと」やその他様々なメディアを活用し、ネット上で人権相談を受け付け、問題解決の方法をさぐること、そして人権教育・啓発に関する情報、教材を提供すること、さらに「ふらっと」を通して人権団体のネットワーク化を実現すること、また講師の派遣や研修教材の紹介、人権問題を悪用した悪徳商法に対する相談などにも応じる。

 理事長に武者小路氏、理事に太田知事ら一四人、事務局長に北口大阪府連書記長を決めた。NROの核である「ふらっと」の実務は大阪府連教宣部が担っているが、ホームページの更新はかなりの労力を要する。NROではさらに多くの入会を呼びかけると同時に、「ふらっと」の手助けをしてくれる人をつのっている。問い合わせはNRO事務局へ(大阪市浪速区久保吉一の六の一二、部落解放センター内。電話〇六・六五六八・一六二一)。なお「ふらっと」のアドレスはhttp://www.jinken.ne.jp)。

 IT時代に対応するために大阪府連各支部でもホームページを開設するところがふえている。大阪府連自身も昨年夏、府連事務所(大阪市)と府連全支部を結ぶコンピューター・ネットワークをつくった。「グループウェア」というシステムで、各支部のパソコンと府連をインターネットを利用したネットワークで結んだものだ。支部と府連間の情報発信、入手が瞬時にして行えるようになったわけだ。

 NROは船出した。人権情報発信を官民一体でというこの機構、恐らく全国で唯一だろう。会員の拡大、費用の捻出、「ふらっと」の一層の充実等々課題は多い。が、何よりも問われるべきは“情報の質”である。実務を担当しているスタッフ、支援してくれる人たちの奮闘が日々続いている。