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human Rights154号掲載
連載・部落解放運動は今
辻 暉夫(つじ・あきお 解放新聞大阪支局)

新しい風57

永住外国人の参政権要求

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 グローバリゼーション。ボーダレス。国際化。人、モノ、金、情報が国境をこえてとびかう時代。IT革命がそれに拍車をかけている。「若者よ、国際人たれ」という。国際化時代に対応できなければ未来はないともいわれる。国際人とはまず英語ができることが最低限の条件と思っている人もいるようだが、決してそうではない。国や民族をこえて、一個の人間として対等に向きあい、理解すること、違いを認めあうこと、要は他者の存在をきちっと認識する心をもっていることが最も大切だ。

 「内なる国際化」とよくいわれる。私たちが日本に住んでいる外国人とどうつきあっているか、どう見ているか。国外の外国人と仲良くしているとか、うまくつきあっていけるとかいうことは確かに国際人たる必須の条件ではあるが、国内にいる外国人の存在を無視したり、差別したりするようでは、国際人とは決していえまい。在日外国人のことを抜きにして国際化社会なんて、とてもいえたものではない。

永住外国人の地方選挙権

 「永住外国人の地方選挙権を求める大阪実行委員会」の結成総会が一一月六日、大阪市内でひらかれた。秋の臨時国会に提出された永住外国人地方選挙権法案の早期成立をめざして市民運動を盛り上げていこうというわけだ。実行委員会には自治労大阪府本部、大阪平和人権センター、大阪教組、部落解放大阪府民共闘会議、部落解放同盟大阪府連の五者が加盟、他の団体にも広く参加を呼びかけている。

 当日は労組や解放同盟から約百人が参加。府民共闘の山田議長(自治労府本部委員長)や来ひんの在日韓国民団大阪府本部役員、各党代表らがあいさつ。北口府民共闘事務局長(解放同盟大阪府連書記長)が「平和と人権、共生の二一世紀が幕をあけようとしている今こそ、法案を成立させるために広範な運動を展開していかなければならない」と基調提案した。講演した丹羽雅雄弁護士は「この問題は、旧植民地出身者とその子孫に対しては戦後処理・戦後責任の問題だ。また日本社会が民主主義と人権保障、多文化共生社会を実現しうるかどうかという『内なる国際化』の問題である」と指摘した。

大阪からはじまった運動

 定住外国人の参政権を求める運動は大阪から始まった。大阪は在日韓国・朝鮮人が全国で最も多く、大阪市生野区の場合、四人に一人が韓国・朝鮮人という土地柄である。民族差別に反対する運動は韓国・朝鮮人を中心に、部落解放同盟も手を組んで進めてきた歴史がある。地方公務員採用における国籍条項撤廃運動、外国人入居差別反対運動、民族教育運動などに取り組んできた。

 参政権については一九九〇年に韓国人九人が訴訟を起こした。九五年に最高裁は「地方自治体と密接な関係がある在日外国人の意志を地方行政に反映させるために選挙権を付与することは憲法上禁止されていない」との判断を示した。

 選挙権を求める地方議会第一号は九三年の大阪府岸和田市議会で採択された決議だ。それ以降これまでに大阪府内全自治体で議会決議や意見書が採択されている。

 臨時国会に提出された民主党、公明・保守党案はいずれも被選挙権は認めていない。一票を行使する選挙権と、選挙に出馬する権利の被選挙権は参政権として本来不可分のものだ。大阪実行委員会は選挙権のみの法案を求めるのはどうかという議論が結成準備会で何度も行われてきた。その結果、選挙権だけでも強い反対論があるなかで、まずは選挙権を確立し、そして被選挙権を含めた参政権をかちとっていこうということになった。

 自民党内に根強い反対論があるように、狭小なナショナリズム、排外主義、差別意識の問題が根底のところにひそんでいる。そうした意識を打破し、「内なる国際化」を進めていくうえでも大きな意義があると同実行委はいう。

 典型的な反対論は「参政権が欲しいのなら、帰化して国籍をとれ」という論だ。こうした意見は民族主義的、排外主義的心情に訴えかけるものがあるのだろうか、意外に根強いものがある。そこには国籍や民族にかかわりなく、一個人の人間としての権利を認めるのが当然という考え方がない。まして永住外国人の場合なのに、である。

時代と社会の要求にこたえる

 参政権問題はマスコミでも賛否両論がとりあげられてきた。筆者が目にした意見のなかで、説得力があるなと思ったのは次のような意見である(朝日新聞から)。

 「永住外国人の地方参政権の問題では、この社会を支え、地域に永住する外国人に、より安定した地位を保障し、公共的な問題について積極的に参加できる機会を与えるのか、それともあくまでもパブリックな領域から排除し、帰化=同化しなければ構成メンバーとみなさないのか、その選択が問われている」(姜尚中・東大教授)。

 「今後、外国人の情報技術(IT)技術者の登用や介護労働力としての外国人労働者の問題をはじめとして、日本が真に国際社会に開かれた国家と言えるかどうかが問われる場面もふえていく中で、国際社会における日本の針路はどうあるべきかという問題と切り離してこの問題を考えることは適当ではない」(評論家・田中直毅氏)。

 この参政権問題は在日韓国・朝鮮人の問題として受けとめられがちだが、そうであると同時にボーダレス時代の日本の針路の問題でもあると思う。

 大阪の被差別部落には韓国・朝鮮人がたくさん住んでいる。私は二〇年ほど前、彼女・彼らを取材し、それを「被差別部落に住む朝鮮人」というタイトルで小さな本にしたことがある。なぜ部落に彼女・彼らが多いのか、一言でいえば部落と重なりあう差別と貧困が背後にあったと記憶している。部落解放運動に触発されて、民族差別反対運動や民族教育運動に立ち上がっていった韓国・朝鮮人を少なからず知っている。そうして部落解放運動もまた彼女・彼らから学ぶところが少なくなかったのである。

 当時、韓国・朝鮮人のなかで参政権を主張する活動家は少なかった。「同化につながる」といわれたものだ。権利意識や考え方も変わった。時代も変わった。参政権要求は時代と社会の要求なのである。