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human Rights156号掲載
連載・部落解放運動は今
辻 暉夫(つじ・あきお 解放新聞大阪支局)

新しい風59

奨学金拡充へ市民運動

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 来年三月をもって現行の「地対財特法」が期限切れとなる。一九六九年に制定された同和対策事業特別措置法以来の「特措法時代」が終えんを迎えようとしているわけだ。ポスト特措法時代、同和対策事業をどうするのか、行政の側も運動の側もまだ明確な“航路”を決めていないところが少なくないようだ。

 この間実施されてきた同和対策事業のなかで、最も大きかったのは住宅建設を中心とする環境改善と解放奨学金だろう。「法」期限後この二つはどうなるだろうか。住宅は家賃値上げ攻勢などがあるだろうが、住宅そのものが消えてなくなるわけではない。ところがもう一方の奨学金については、国は来年四月以降は廃止するという方針を固めている。

 これに対して部落解放同盟は昨年の全国大会で「解放奨学金は『真に必要な者』には給付制であるべきという理念のもと、解放奨学金制度の継続を求めていく」という方針を決定している。国が制度廃止という方針のなかで、運動サイドは存続を要求していくという方針。双方の“攻めぎあい”は激しくなるだろう。

解放奨学金の単純な延長ではなく

 部落解放同盟大阪府連は昨年の大会で、一般の奨学金制度を拡充するという条件のもとで、現行の解放奨学金制度の存続を求めないという方針をうちだした。存続を求めるところが多いなかで、大阪府連がうちだしたこの方針は全国的にも注目を集めた。

 大阪府連がこの方針を決定した理由はいくつもあるが、そのうちの主要なものにふれてみたい。奨学金制度は確かに部落の高校、大学進学率を高めてきた。しかしそれも近年頭打ちになっている。また低学力の克服や人材育成という点で依然として問題をかかえている。これらの問題は制度の単純延長では解決できないのではないか。

 その一方で、長期化する不況のなか、経済的理由によって進学を断念せざるをえない生徒がふえている。かつては部落に集中していたが、今や部落外でも大変な社会問題となっている。そこで同じ悩みをもつ多くの人たちと手をたずさえて、一般の奨学金制度の抜本的拡充を追求していくべきではないのか。部落解放運動がつちかってきた経験や成果と市民運動を結合させ、部落問題を真に国民的課題としていくためにも市民運動としての奨学金制度改善運動に取り組んでいくべきではないかということになった。

深刻な不況の影響

 昨年一二月、大阪市内で奨学金シンポジウムがひらかれた。教育改善要求大阪実行委員会(代表・松岡徹大阪府連委員長)などの主催で、大阪府連各支部や大阪教組、市民団体から約二一〇人が参加した。経済的理由によって学ぶ権利が侵害されている実態が次のように報告された。

 教育費が年々高騰するなか、不況、リストラ、失業が相まって経済的理由によって進学を断念せざるをえない状況が深刻化している。日本育英会奨学金や大阪府育英会奨学金の返還についても滞納が急増している。大学の場合、合格通知を手にするまでの受験費用等の平均は約二〇万円。入学金が私立の場合、文系で一〇九万円、理系で一四一万円。教科書代などを含めると入学時に要する平均費用は国公立で一二三万円、私立で一五二万円だ。また今年度高校へ入学した生徒の費用は公立で約四〇万円、私立は約六〇万円に達している。

 大学に進んだあとに必要な費用は私立で年間一二四万円、国公立を含めた平均で一一四万円、高校の場合は公立で五二万円、私立で一〇一万円。これに対して日本育英会「きぼう・・」(有利子)の最高額が月一〇万円、必要費用をまかなえるギリギリの額だ。高校の場合、府育英会の制度を活用しても公立で三一万円、私立で六六万円の不足が生じてしまう。収入が減少している家庭が少なくないなか、これでは進学をあきらめざるをえない生徒が増加するのは当然だ。

 また大阪の新しい教育運動「ネム・・」がこのほど行ったアンケート調査によると、保護者の二〇%が奨学金制度を「積極的に利用したい」、四八・一%が「できれば利用したい」としており、三人に二人が奨学金の利用を希望していることがわかった。教育費の高騰、収入の低下による進学断念という問題は今や社会全体に広がる深刻な問題なのである。にもかかわらず日本育英会については「ほとんど知らない」(一八・六%)、「名前は聞いたことはあるが内容は知らない」(五七・二%)、大阪府育英会についても同様の結果がでており、七割を越える保護者に奨学金制度の情報が届いていないことがわかった。

すべての子どもに「学ぶ権利」の保障を

 シンポジウムでは、政策要望案が示された。その第一は、すべての府民がいかなる状態になっても学ぶことを断念しなくてもよいような奨学金制度の実現へ、府育英会の奨学金制度と入学仕度金制度を拡充することだ。特に入学時に巨額な費用が必要なため、これの拡充、制度改革は不可欠だ。そのために府育英会の制度について、保護者の所得制限を撤廃せよ、貸付け単価をアップせよ、卒業後一〇年以内という現行の返済期間を日本育英会と同様の二〇年にせよ、二一世紀の大阪を担う人づくりのために奨学金の返還免除制度や、「おおさか人づくり・人材育成制度」(仮称)の創設を検討せよ、などを要求している。úbウらに経済的困難をかかえる生徒たちが生活福祉資金の「修学資金」や母子寡婦福祉資金のúH「修学支度金」、国民金融公庫の「教育ローン」等を十分に活用できるようにしてほしい、また日本育英会や国に対しては、大学入学支度金制度の創設、成績条項や有利子制度の撤廃等を働きかけていくことにしている。

 シンポジウムに参加した団体をはじめ多くの市民団体が今年一月から「経済的理由によって学ぶ権利が侵害されないための教育費支援制度の充実を求める署名運動」に取り組んでいる。中心となって活動しているのは大阪教組、部落解放同盟大阪府連だ。どれだけの署名が集められるか、すべての子どもに、「学ぶ権利」を保障する運動の前途は厳しい。部落問題を真に国民的課題とするために、すべての子どもの基本的人権をまもるために、力強く前進してほしい。