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human Rights158号掲載
連載・部落解放運動は今
辻 暉夫(つじ・あきお 解放新聞大阪支局)

新しい風61

2000年実態調査結果

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 新世紀における部落解放運動のめざすべき方向は、同和行政のあるべき姿は−−。それを明らかにするためには、部落の実態を正確に把握すること、市民の意識はどうなのかを知ることが不可欠だ。大阪府と府内全市町村は昨年五月、大阪の全部落と市民を対象に「同和問題の解決に向けた実態等調査」(二〇〇〇年部落問題実態調査)を実施した。部落解放同盟大阪府連の要請、協力を受けて行われたもので、本誌五月号が発刊されるころには最終結果がまとめられることになっている。

 現行の「地対財特法」は来年三月に期限切れとなる。一九六九年の同和対策事業特別措置法以来の「特措法時代」が終わる。運動の側にとっても、行政の側にとっても大きなフシ目を迎えている。加えてIT革命、グローバル化、環境問題などがある。部落をとりまく状況が大きな変化の真っただ中にあるわけだ。

 実態調査はこのような問題意識をもって行われた。調査は大別して三つ。第一は同和地区内実態調査。第二は大阪府民人権意識実態調査。第三は行政関係調査。今号ではこのうち地区内生活実態調査結果の概要をかいつまんで紹介してみる。

 調査は大阪の四七の全部落で、一五歳以上の男女一万人(無作為抽出)に調査表を配布、記入してもらう形で行われた。有効回答数は七八〇五人、回答率は七八・一%だった。なお、これらの結果はあくまでも四七地区の平均値であり、当然各地区ごとに徹底分析されることになっている。

 日本は他に例をみないスピードで高齢社会に突入した。部落の場合その傾向が顕著で、六〇歳以上の人口構成比が府平均を上回っているのに対し、五〇歳未満は逆に大きく下回っていることがわかった。若年層の減少と高齢者の増加をふまえた運動、行政施策が求められている。また高齢者世帯、母子世帯ともに府平均の二倍、父子世帯は五倍もの高さとなっている。

 「自分を同和地区出身者であると思いますか」という質問に、「そう思う」が四九・七%、「そう思わない」が三八・一%だった。地区出身であるかどうかは今住んでいる居住地よりも、出身(どこに生まれたか)が大きく関係しているようだ。また夫婦とも地区出身が三〇・二%、一方が地区出身が四〇・五%、夫婦とも地区外出身が二九・四%で、年齢が若くなるにつれて一方が地区出身がふえている。

 五〇〜五四歳を境に学歴構成が大きく変化している。これより若い層には不就学はほぼ解消されており、高校や短大、大学卒の割合が激増している。解放運動なり解放奨学金が大きな役割を果たしてきたことを物語っている。しかし府全体と比較すると、いずれの年齢層においても依然として大きな「学歴格差」が存在している。

 解放奨学金がなかったら四人に一人が高校進学を断念していた、大学進学は三八・七%が断念していたと回答している。国は来年四月から解放奨学金制度を廃止する意向を固めているが、そうなった場合、他の奨学金に期待している人が四割を越えている。

 一方、高校に進学した現代二〇歳代の人に聞いたところ、高校を中退した人が一三・九%にのぼっている。高校進学率の格差が三〜四%に縮小されてきたのに、この中退率の高さをみると、高校卒業率は重要な教育課題といえよう。このほか1.学習困難の状況が小学校高学年から増加している2.高校、大学への進学希望が高い3.PTAや地域の保護者会活動への参加が低い−などが明らかになった。

 「読むこと」は一〇人のうち一人、書くことは七人に一人が不自由しており、非識字の解消という課題が依然として存在している。

 パソコンの普及率は一九・九%で、全国の三八・六%の半分近く。インターネットの利用率は一四・四%で、これも全国平均の半分。デジタル・デバイドは厳然としており、IT時代の今日、この格差を埋めていくことは解放運動が取り組まなくてはならない重要課題の一つであることをこの数字が的確に物語っている。

 昨年四月にスタートした介護保険制度。その一カ月後の調査で、介護を必要としているのに申請していない第一号被保険者が四五・四%もいた。このほか1.七人に一人がちゃんとした食事がとれていない2.四人に一人がほとんど外出していない3.配食サービス、生きがいづくりなどのニーズが高い−ことがわかった。

 公的年金の加入状況は国民年金二四・六%、厚生年金二二・二%、共済年金六・六%、公的年金受給中が二三・五%、未加入が二六・二%。一〇年前の調査に比して未加入が五・八ポイント高くなっている。未加入の理由のうち経済的理由をあげた人が二人に一人となっている。これを裏づけるように低所得者が全国の構成比を上回っている(表)。また年金の将来に対する不信も大きい。

 次に仕事に関する調査結果をみてみよう。調査時点での失業率は、若年層と四〇年代男性が府平均の二倍。産業別就業者数では、サービス業、公務が多く、その他の分野は少なくなっている。また専門的・技術的職業従事者、事務従事者の構成比が府に比べて低く、サービス職業従事者が多くなっている。また府平均と比べると、男女とも従業員五〇人未満の事業所に勤める人の割合が高い。勤続年数が短いことも特徴で、離転職を繰り返している人が少なくないことを示している。

 次に住宅をみてみよう。公営・改良住宅が最も多く六一・六%、ついで一戸建て持ち家二九・五%、民間借家六・七%。百軒のうち六〇軒強が公営・改良住宅で、これは府平均の六倍。解放運動によって建てられた公営・改良住宅がいかに大きな比重を占めているかがわかる。

?公営・改良住宅のうち風呂がない住宅が五一%に達し、またすべての住宅で建物のバリアフリーの遅れがみられる。「今のところに住み続けたい」が五二・九%、「できれば区外に引っ越したい」が一〇・二%。その理由として、差別を受ける恐れ、治安や風紀が悪い、別の学区で教育を受けさせたいなどが多い。

 なお地区住民の意識調査結果は紙幅の関係で省略するが、被差別体験の有無については、差別を受けたことがある二八・一%、差別を受けたことがない六九・一%だった。被差別体験のうち結婚差別が最も多かった。

 大阪府連各支部では各地区の調査結果をきめ細かく分析し、科学的データをもとに「新要求白書」を作成することにしている。

年間世帯総収入別世帯構成比

   同和地区 全国
2000年 1990年 1998年 1989年
総数(世帯) 7,720 30,308 10,000 10,000
100万円未満 12.5% 14.8% 4.6% 4.9%
100〜200万円未満 19.4% 19.5% 10.4% 11.5%
200〜300万円未満 14.7% 15.4% 10.0% 12.7%
300〜400万円未満 11.0% 12.8% 10.7% 13.6%
400〜500万円未満 9.0% 10.5% 10.3% 12.3%
500〜600万円未満 7.8% 7.3% 9.1% 11.1%
600〜700万円未満 5.0% 4.5% 8.3% 8.8%
700〜800万円未満 4.2% 3.2% 7.0% 6.8%
800〜900万円未満 3.2% 2.2% 6.1% 4.9%
900万円以上 8.9% 4.7% 23.4% 13.5%
不明 4.2% 5.1%

注)全国:「国民生活基礎調査」1998、1989