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human Rights160号掲載
連載・部落解放運動は今
辻 暉夫(つじ・あきお 解放新聞大阪支局)

新しい風63

生きがい支援事業

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厚生労働省が五月に発表した国民生活基礎調査によると、六五歳以上か、六五歳以上と一八歳未満で構成する高齢者世帯が初めて六百万世帯を越え、この二五年間で約六倍に増えたことがわかった。高齢者世帯は全世帯の三割以上を占め、日本は人類史上、未曾有の高齢社会をむかえている。

 被差別部落では、それがもっと速いスピードで進んできた。昨年五月、大阪の全部落で行われた実態調査によると、高齢者世帯は府平均の二倍、その一方で五〇歳未満は府平均を下まわっている。高齢者の増加と若年層の流出が特徴だ。高齢社会にどう対応していくかは、日本にとって二一世紀の最大の課題の一つだが、これは部落解放運動にとっても同様である。

 高齢者にとって大事なのは三Kだといわれる。健康、経済、介護である。もう一つぜひ加えておかなければならないものがある。それは生きがいだ。いくら三Kに問題がなくても、生きがいや生きる目標なくして充実した人生を送るべくもない。

 大阪府は二年前の七月、「生きがいワーカーズ支援事業」をスタートさせた。働くことを通して高齢者の生きがいづくりを応援しようというこの事業、実は部落解放運動から生まれたものだ。

 大阪府は四年前、老人医療費公費負担制度の見直し案を発表、実施に移した。部落解放同盟大阪府連はこれに対して高齢者の人権と自立にむけた施策を要求、署名運動などを展開した。

 その結果、「生きがいワーカーズ支援事業」が創設された。事業を促進する事務局が部落解放センター横の大阪府同和地区総合福祉センター内に設置された(?q〇六―六五六一―四一九九)。事業創設の経過、事務局の所在地などを考えると、部落を対象にした事業のようにも思われるが、全くそうではない。府民なら誰でも活用できるのである。

 では一体どんなことをするのか。事業内容は営利目的以外は制限がない。六〇歳以上のグループ(一〇人以上)がやってみたいことを同支援センターに申請する。同センターはその事業に‡@助言、指導する‡A事業化にあたって研修を行う‡B経営、会計などの専門家を紹介、派遣する、などの支援をする。グループの活動場所、備品の購入など必要な経費を一グループにつき百万円を限度に助成する。

 大阪市も二〇〇〇年度からこの事業をスタートさせた。府、市あわせてこれまでに二六の事業に対して補助金が交付された。事業は給食・配食サービス、清掃、農園づくりなどが中心である。半分以上は部落を拠点として事業だが、部落以外からの申請も年々増えている。

 世界一の長寿国の日本。長い老後をどう生きていくか、充実した毎日を過ごせるか、それは生きがいをもっているかどうかに深く関わっている。このことは部落出身者であろうと、そうでなかろうと関係ない。対象がすべての府民となっているのは当然といえよう。

 この三月、二〇〇〇年度の補助交付事業が最終決定した。大阪府が一〇団体、大阪市が五団体。このような取り組みが全国に広がっていってほしいと願って、一五団体の事業を簡単に紹介してみる。

●大阪府の事業

 野いばら(茨木市北春日丘)=電話による話し相手事業。あまり人と話をする機会がない一人暮らしの高齢者らを対象に、電話で話をする。会員制で、週一回スタッフから電話するか、利用者からするかを選択することができる。

 たすけあい食事サービス運営委員会(和泉市伯太町)=食事をつくるのが困難な高齢者、障害者らに週三回、夕食をつくって配達している。二〇食からスタートし、利用者の負担は一食五〇〇円。

 北芝まかさん会(箕面市萱野)=地域と周辺にある公園と道路の清掃をしている。平日二時間程度。回収したゴミは五キロ離れた環境クリーンセンターに運んでいる。

 蛇草地区給食サービス委員会(東大阪市長瀬町)=市営住宅の貸店舗を調理場にして、週三回食事を配達している。市から運営補助を受け、利用者負担は一食三五〇円。利用者の安否確認もしている。

 よろずサービス事業団(大東市曙町)=市内と三重県の農地で栽培した野菜を搬送し、二カ所の青空市場で販売している。また放置自転車を市から払い下げてもらい、修理、販売している。

 生きがい事業団「むくむくクラブ」(大東市北条町)=空き地を利用し、無農薬野菜や椎茸を栽培、販売している。健康食品で、収益性もある椎茸に着目、専門家から指導を受けてきた。

 高槻富田生きがい事業団(高槻市富田町)=市の事業委託を受け、市営住宅や公園の清掃をしている。また会員はゴミやリサイクル、福祉のまちづくりなどについても研修を受けている。

 高齢者事業団「ギオン」(泉大津市曽根町)=農地を借りて花や野菜を栽培、販売している。農地は約百坪で、さらに二カ所増やすことにしている。専門家の指導を受けている。

 トラジの会(八尾市竹渕西)=在日コリアンの高齢者が利用している福祉施設と契約し、民族楽器による公演をしている。歌も踊りもこなす。公演料は一回一万円以上。

 総持寺地区高齢者事業団(茨木市)=空き地一五〇〇平方米で無農薬有機農法で野菜を作り、販売する。会員は一五人、経験のある人が少ないため、勉強を続けていくことにしている。

●大阪市の事業

 あすかボランティア・ワーカーズ(東淀川区東中島)=会員二五人で発足。高齢者らに食事を配達している。また公共施設や公園の清掃もしている。

 たんぽぽの会(東住吉区矢田)=近くの特別養護老人ホームのオープンスペースを活用し、週三日、喫茶コーナーを運営している。会員は一九人。

 南津守老人清掃の会(西成区南津守)=会員一五人で発足。公園や道路の清掃の業務委託を受けてスタート。事務管理のためパソコンも購入した。

 加島アタックサービス企業組合(淀川区加島)=公園などの清掃、管理業務の委託を受け、月に二五日〜二七日間行っている。食事の配達も始める予定。

 アリランの会(平野区平野市町)=在日コリアンの高齢者らが、高齢者施設などを訪問し、民族楽器の演奏、歌、舞踊などを披露している。会員は一五人。

 これら一五事業のうち、九事業は部落での取り組みだが、この事業が知られるにつれ、広く利用者が増えている。大阪府内で二番目に人口の多い堺市もこの四月から同様の事業をスタートさせた。部落解放運動から生まれたこの事業、高齢社会に重要な示唆を与えているといえよう。