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「仕事がほしい」
今春、大阪にオープンしたユニバーサル・スタジオ・ジャパン。東京ディズニーランドに匹敵する人気で、関西経済復活の起爆剤になるのではないかと期待されている。が、雇用状況改善には焼け石に水のようだ。大阪の失業率はワースト記録のままで、特に中高年のそれは深刻だ。
JR環状線(高架)で大阪市内を一周してみると、それがよくわかる。いたるところの公園や道路沿いに青いテントがみえる。「野宿生活者」(ホームレス)が暮らしているところだ。大阪の野宿生活者は現在約一万二千人、東京は約六千人、全国で約三万人といわれている。ニューヨークで千人ほど。先進国で日本ほど多い国はないそうだ。これは個人の責任ではなく、政治や行政の怠慢といえるのではないだろうか。
大阪城のある大手前公園で六月二一日、野宿生活者自立支援法(仮称)の早期成立を求める決起集会がひらかれた。連合大阪、釜ヶ崎支援機構(NPO法人)、部落解放同盟大阪府連などで構成する実行委員会の主催で、野宿生活者、日雇い労働者、連合大阪、大阪府連各支部などから約三百人が結集した。
二人の野宿生活者がアピールに立ち「四年間、アルミ缶を集めてギリギリの生活をしてきたが、もう限界だ。仕事がほしい」と訴えた。釜ヶ崎支援機構の山田理事長が雇用拡大を、大阪府連の富田執行委員が人と人との豊かなつながりを呼びかけた。そして支援法の早期成立、国の財政的な支援を求めていくことなどを決議した。
根強い市民の偏見
日本一の規模をもつ日雇い労働者のまち、西成区釜ヶ崎(あいりん地区)。建設関係の仕事が激減しているため、仕事にあぶれている人が非常に多い。よそからここにきて、仕事がなく、テント生活を余儀なくされている人も少なくない。
釜ヶ崎に隣接している西成の被差別部落は約九千五百世帯、人口約二万七千人で、全国最大の被差別部落である、釜ヶ崎、部落、そして、在日コリアンが多くすんでいることなどもあって、西成に対する差別意識、偏見は根強く、広範囲におよんでいる。ある漫画家が雑誌の中で、西成に対する「偏見にもとづく漫画」を描いた。また米子市民が西成への差別意識から結婚差別事件を引き起こしたこともあった。これらは“西成差別”というべきもので、西成の市民全体が対象となっている。
部落と釜ヶ崎に対する差別、偏見を無くさない限り、西成差別はなくならないということで、大阪府連西成支部★は「釜ヶ崎問題」にも取り組んできた。その一環として今度の野宿者問題への対応がある。
二年前の八月、大阪市立大学都市生活環境問題研究会が大阪市の委託を受けて、野宿生活者の聞き取り調査を五日間にわたって行った。大阪府連各支部からも調査員として多数が参加。野宿生活の実情、野宿にいたった経過、行政への要望などを聞いて回った。今年一月、大阪市はこの調査と市民意識調査の結果を発表した。
市民意識調査によると、野宿者に対するイメージは、不健康六七・六%、汚い六七・五%、怠け者五一%、こわい三三・六%など。なぜ野宿生活者になったと思うかという問いには、不景気で仕事がないから七五・八%、働くのが嫌だから五八・六%、本人が望んだから四〇・九%、怠け者というイメージが強いが、野宿生活者への聞き取り調査では、八割が廃品回収などの仕事をしている。またほとんどの人が一定の収入がある仕事を求めており、「怠けている」という市民意識と隔たりがあることがわかった。
社会への再参入を
昨年末には、自立支援の特別立法制定を求めるシンポジウムが連合大阪主催でひらかれ、大阪府連からも多数が参加した。この場で支援法案が提起され、各党に要請した。これを受けて民主党は今年六月一四日、「ホームレスの自立等に関する臨時措置法案」を衆議院に提出した。法案の主な点は‡@ホームレス問題での国の責任を明記‡A就労、職業訓練、住居の確保などの支援‡BNPOなどの民間団体との連携‡C都道府県に支援実行計画の策定を義務づける‡D全国規模の実態調査を行う―などである。
もちろん、自立支援だけですべてが解決するべくもない。この問題に取り組んでいる大阪市立大学の福原宏幸助教授は次のように指摘する。
「ホームレス問題の発生は、不況・失業に伴うものであったり、社会的な人間関係の希薄化・崩壊といった現代社会の問題に起因している。いわば社会的排除が問題であり、社会の側が問われる必要がある。ホームレスの、社会への再参入も必要だ。たとえば中高年失業を深刻化させている雇用における年齢差別を禁止すること、多くの市民がホームレスに抱いている誤った意識を啓発していくことなどが必要だ」
不良債権処理の先には
小泉首相は「聖域なき構造改革」を声高に主張している。痛みを伴っても改革を断行していくとも明言している。既得権益の構造を破壊する改革が今の自民党にできるのか、多いに疑問だ。また改革に伴う痛みが社会的弱者に集中する恐れが多分にあることも看過できない。
不良債権の処理で、特に建設業の倒産が続出するだろうといわれている。建設現場で日雇い労働者として働いている人たちを直撃する問題だ。仕事がなくなった人たちの中からテント生活を余儀なくされる人がでてくる。これから先、野宿生活者がもっと増加していくにちがいない。今でも釜ヶ崎でのボランティアによる炊き出し(食事の提供)には千人を越える人が行列をつくっている。大阪市内での行路死亡者は毎年二百人以上にのぼっている。
先進国でホームレスについての法律がないのは日本ぐらいだそうだ。この六月ようやく自立支援法案が提出されたわけだが、成立のメドは立っておらず、政治の対応が遅すぎる感は否めない。野宿生活者、釜ヶ崎支援機構、連合大阪、部落解放同盟大阪府連などの取り組みによって、事態はようやく動き出したが、前途は多難だ。「社会的排除の問題」なのだから、社会全体で注視し、関心を払っていかなければなるまい。