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human Rights163号掲載
連載・部落解放運動は今

辻 暉夫(つじ・あきお 解放新聞大阪支局)

新しい風65

障害児を排除する「改正」の動き

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直ちに「改正」反対の世論を

 障害児を地域の学校から排除する文部科学省の学校教育法施行令、施行規則の「改正」を許さない―大阪で障害者解放運動、教育運動、部落解放運動にかかわっている人たちが8月7日、同省を訪れ、強く要請、抗議した。大阪では1960年代の終わりから、「障害児を地域の学校に」という運動が、障害者団体や部落解放同盟大阪府連などによって始まり、これまでかなりの実績をあげてきた。今回の「改正」はそれを踏みにじるものであり、早急に全国で反対運動を展開していかなければならない。

 昨年12月「21世紀の特殊教育の在り方について」の最終報告が出された。これを受けて文部科学省特殊支援教育課が、学校教育法施行令、施行規則の「改正」を進めている。その主な点は、盲、聾、養護学校への就学を義務づけるものとして、「重度重複障害者の場合」「学校の施設、設備が整っていない場合」「安全に過ごすことができない場合」「教職員や児童生徒との対人関係の形成で問題が認められる場合」をあげている。

 一方、地域の小中学校への入学を認める「特別措置」については「合理的な理由がある特別な場合」に限定。「介助員なしに学習や身のまわりのことができること」を前提にしている。これでは事実上、障害児は地域の学校へ入学できなくなる。

 また、現行の施行令、「改正」案ともに、22条3項の就学規定のなかで、障害をこと細かく規定しているうえ、障害は個性であるのに、「心身の故障」と表現している。

 現行の施行令に比べ(1)重度重複障害者、「特別措置」を明記していること(2)これまで都道府県の機関委任事務だった就学指導が市町村の自治事務になったことなどによって、障害児が地域の学校に行ける条件が非常に厳しくなった。障害児の事実上の排除といえよう。

 この政令は来年4月に施行、再来年度入学者から適用される。また、すでに地域の小中学校に在学している障害児にも適用される予定になっている。従って「もうあまり時間はない」。直ちに「改正」反対の世論を結集しなければならない。

文部科学省に要望書提出

 大阪では、障害者団体、障害児の保護者、部落解放同盟などのねばり強い運動によって、行政との協力関係を築きながら、障害児の原学級保障、教育条件の整備が進められてきた。その結果、現在、障害をもつ子どもたちの80%が地域の小中学校に通うまでになっている。また、医療ケアを必要とする子ども約50人が地域の学校に行っている。

 8月7日の要請行動には、障害児の自立と完全参加を目指す大阪連絡会議、医療的ケアを考える大阪ネットワーク、大阪教組、部落解放運動から生まれた教育運動・ネム21の代表らが参加。文部科学省の岸田副大臣らに会い(1)就学については、障害児本人・保護者の選択権、自己決定権を認めることを基本にしてほしい(2)障害を「心身の故障」とした表現を削除するべきだ(3)22条3項の就学規定を全面的に廃止し、希望する障害児は地域の学校で受け入れる体制づくりを推進されたい―などを申し入れた。岸田副大臣は「現在、論議を進めている段階だ。みなさんの意見を反映できるようにしたい」と述べたが、具体的な回答はなかった。

 ここで遠山文部科学大臣にあてた要望書の骨子を紹介する。よくまとまっているので、参考になれば幸いである。

 「障害をもつ子も、持たない子もともに学ぶことは、ノーマライゼーションの理念からも当たり前です。障害を個性として認め、どんな重度の障害があっても、住み慣れたまちで自立生活を送ることや、どんな教育の場でも、仕事の場でも障害をもつ人がいて当たり前なのです。病気や障害の種類、程度を細かく分け、就学先を決めることが大事なのではなく、どんな状況の子どもも受け入れる地域の学校づくりが求められているのです。地域の学校に通えず、長時間かけて養護学校に行かなければならない問題はどの地域でも指摘されています」

 「日本において、何らかの障害者手帳を持っている人は22人に1人といわれています。しかし学校教育や仕事の場で障害者と出会ったことがない人が多く、自分や家族などが障害を持った時に、とまどったり、途方に暮れてしまうのです。また障害や病気に対する忌避感は強く、偏見や差別が多く存在しています。障害児が学校で、いじめや差別を受けている事例は多く、教師による暴行・虐待もあります。教職員の障害観を変える取り組みが求められており、人権侵害を人権侵害と見抜く人権感覚の醸成が必要です」

 「日本の社会福祉制度はこれまで、行政がサービスを必要とする対象者を判断し、行政がその費用を措置費で賄うという方法を採ってきました。しかし近年、人権意識の高まりや社会環境の変化により、利用者の意志でサービスを選択し、決定できるようになってきました。1998年、児童福祉法の改正により、市町村の措置による保育所入所から、保護者が希望する保育所を選択して入所できるようになりました。昨年4月の介護保険法により、利用者がサービスを選択できる社会福祉制度への変革がスタートしました。当事者の意志決定の尊重、自己選択は今や時代の大きな流れです。教育だけが、障害児や保護者の希望は無視するという傲慢な態度でいいはずがありません」。

当事者の意志がすべてに優先する

 施行令や施行規則は、国会審議の必要がなく、文部科学省内だけで「改正」の作業が進んでいる。当事者や外部の意見を聞こうという姿勢はとっていない。障害児を地域の学校から一層排除することになるのに、当事者の声は無視されているわけだ。

 障害者手帳を持っている人は22人に1人だが、手帳を持たない障害者を入れると、10人に1人といわれている。また日本は歴史上、世界でも例のないスピードで高齢化社会に突入している。4人に1人は65歳以上という時代が目前にきている。当然、高齢による障害者が増えてくる。家族や親族に障害者が必ずいるという時代がやってきているわけだ。こんな時に障害者を地域から排除するという考え方は時代の流れに大きく逆行しているといわざるをえない。「地域で共に生きる」という世界の流れにも反している。障害児・保護者の意志、選択がすべてに優先されなければならない。