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来年3月、現行の「地対財特法」が期限切れとなるのをもって、1969年制定の同和対策事業特別措置法から始まった「特措法時代」は終焉を迎える。30年余に及ぶ「特措法」は部落を大きく変えた。と同時に部落解放運動にも大きな影響を与えた。同和対策に取り組んできた行政はもちろんである。「法なき後」の同和行政はいかにあるべきか、これが今、全国の自治体、部落解放同盟にとって最大の課題の一つになっている。
大阪府同和対策審議会(会長=山本登・大阪市大名誉教授)は9月14日、「大阪府における今後の同和行政のあり方について」との答申をとりまとめ、太田房江知事に提出した。答申はそのなかで、これまでの同和行政を継承、発展させ、広く人権行政として積極的に取り組むべきであると提言「同和問題解決のための施策の灯を、人権問題という本質からとらえて、人権施策の灯として21世紀に受け継ぎ、同和問題が一刻も早く解決されるよう一層の努力を払われたい」と強調している。同和行政に最も先進的に取り組んできたといわれている大阪府の、21世紀における基本目標、方向をしめしたもので、他にも影響を与えよう。そこで答申の骨子を紹介してみる。
この答申は昨年6月、知事から諮問があり、府同対審が1年余にわたって審議を重ねて出した。府同対審は府議8人、有識者16人、地区精通者6人、行政職員3人の合わせて33人から成っている。地区精通者の1人として部落解放同盟大阪府連の北口書記長が委員をつとめてきた。
答申は30ページ。前文、同和問題解決のための施策の基本方向、施策の推進方向、府同対審のあり方、府の体制から成っている。前文では同和行政の歩みを振り返ったあと、「すべての人の人権が尊重される豊かな社会を実現していくために、21世紀は人権行政を積極的に展開するべきである」としている。
同和問題を人権の本質からとらえる
施策の基本方向のなかではまず、部落差別が現存する限り、施策を推進する必要があると指摘。ついで昨年、大阪の部落、府民を対象に行った「部落問題実態調査」の結果からみた現状と課題に言及。
このあと答申の中核をなす基本視点のなかで、実態調査の結果からまず進学率、中退問題などの教育課題、失業率の高さ、不安定就労など労働の課題があるうえ、府民の差別意識の解消が十分に進んでおらず、差別事象もあとを絶たない状況にあると強調。またIT社会の到来は同和地区内外の情報格差を生んでおり、新たな社会的、経済的格差につながることが懸念されると述べている。
一方、近年同和地区においては、住民の転出入が多く、学歴の高い層や若年層が地区から転出し、低所得層、母子世帯、障害者など行政上の施策による自立支援を必要とする人びとが地区に来住するという動向がみられるとしている。こうした人口の流動化、とりわけ様々な課題を有する人びとの来住の結果、同和地区に現れる課題は、現代社会が抱える課題と共通しており、それらが同和地区に集中的に現れていると指摘している。
このため同和地区に対する新たな差別意識、社会的排除を再生産させないためにも、現代社会が抱える諸問題に取り組むことが重要であると力説。さらに現行法が失効することなどをあげ、同和地区、出身者に対象を限定した特別措置としての同和対策事業は終了すべきであると結論づけている。
しかしこれは一般施策の活用を否定するものではなく、今後は同和地区、出身者のみに対象を限定せず、様々な課題をもつ人びとの自己実現をはかるという視点に立って、一般施策として取り組んでいくことが適切であると述べている。これによって偏見の解消や、部落差別の原因は同和地区だけに特別措置を行うからだという認識を改めさせることにもなり、同和問題解決の取り組みが普遍性をもったものとして共感を広げることになるといっている。
要するにこの基本視点では、事業の対象者を限定せず、同和問題を人権問題という本質からとらえ、出身者を含めて様々な課題をもつ人びとに対する取り組みとして展開するべきであると主張しているわけだ。
また施策の目標を達成するためには、同和地区内外の住民が自主的・主体的に参画するなかで、(1)地区施設を活用した交流活動、(2)交流と自己実現をめざす様々な学習活動、(3)当事者の立場に立った相談活動などを、地区施設を中心に進めるべきだと提言している。そして特別措置を終了し、一般施策による取り組みを展開することは、同和問題の解決をめざす取り組みの終了を意味するのではなく、これまで以上に基本的人権の尊重という目標をしっかりとみすえ、一般施策を積極的に実施していくことがもとめられるといっている。
個人給付的・物的事業は廃止と提起
個人給付的事業については基本的に廃止するべきだとし、このうち奨学金については来年度以降、日本育英会や大阪府育英会の奨学金制度を積極的に活用して、進学の機会が奪われることがないようにすべきだとしている。
物的事業に関しては、ほとんどの自治体で完了しており、市町に対する府の8割補助は廃止すべきだと提起。さらに同和教育推進校について府が独自に実施してきた教職員の同和加配も終了すべきであるとしている。
このあと府民の差別意識解消・人権意識の高揚をはかるために、これまで以上の取り組みを推進していくべきであると強調。これまでの経験や成果をふまえ、あらゆる場で多様な人権教育・啓発の機会が提供される必要があるとともに、職場や地域における人権教育の指導者の育成が不可欠であると力説している。
? 地区出身者の自立と自己実現をはかっていくために、(1)様々な人びとが協働して子どもの教育のために力を出し合う「教育コミュニティ」の形成、(2)就労については、地区出身者に限定せず、就職が困難な人びとを対象にして現在実施している「地域就労支援事業」を一層推進することなどを力説している。
このほか定住の魅力ある住宅の整備、人権に関する総合的な相談窓口を府に設置することを求めている。また地区内施設については、コミュニティづくりを推進するため地区内外の住民が運営に参画し、幅広く利用される施設として、それにふさわしい運営や名称変更が望まれるとしている。
この答申の根底にある考え方は「同和行政を継承し、21世紀は広く人権行政として展開するべきである」「特別措置としての同和対策事業は終了すべきだ」という点だろう。それはそれとして、部落解放同盟大阪府連はこの答申をふまえ、運動体として「法」後にむけて着々と準備を進めている。