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human Rights168号掲載
連載・部落解放運動は今
辻 暉夫(つじ・あきお 解放新聞大阪支局)

新しい風70

「法」後の同和行政

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 この三月をもって現行の「地対財特法」が期限切れとなり、一九六九年から続いてきた「特措法時代」は終焉を告げる。「特措法」を柱に進められてきた同和行政は新年度からどうなるのか、どう展開していくべきなのか、今全国の多くの自治体で最終のツメが行われている。部落解放同盟も「法」後にむけて行政交渉を繰り広げてきたが、自治体の対応には“温度差”があるようだ。そこで「同和行政の先進地」といわれてきた大阪の場合はどうなのかをみてみる。

各地でブロック交渉

 部落解放同盟大阪府連は昨年末、全市町村をブロックに分け、行政交渉を行った。「法」後の同和行政の推進、新たな人権行政の創造が中心テーマで、ほとんどの自治体から首長が出席した。

 大阪府連がこの交渉で要求した主な点は次のようなものだった。まず「法」後の同和行政については、これまでに再三にわたって確認してきた「差別ある限り、同和行政を推進する」という基本姿勢を堅持すること。差別の現状認識は、全市町村が二〇〇〇年に行った同和地区実態調査、府民意識調査などの結果に基づくものとする。この調査結果の報告書を全自治体で早急に作成すること、そして「差別の原因に迫る」「総合行政としての」「人権行政の一環としての」同和行政を推進すること。これは差別撤廃、人権擁護の視点に立って、すべての施策を洗い直し、人権行政として取り組むことを求めたものである。

 また「これまでの同和行政の成果を後退させない」「新たな差別や人権侵害の予兆に対応する」ことなどを確認するように要求している。

相談活動への見解求める

 特別措置がなくなるということは、もちろん同和行政が終わることを意味するものではない。特別措置としての同和行政が終わるだけであって、一般施策を活用、創設する中で同和行政を展開していくことがもとめられているのである。これからの同和行政は誰を対象にするのか、どんな一般施策を活用するのかが大きな課題だ。

 これらに関して昨年九月、大阪府同和対策審議会(会長=山本登大阪市大名誉教授)は知事に提出した答申の中で「同和地区に現れる矛盾は現代社会が抱える課題と共通しており、それらが同和地区に集中的に現れている」と指摘。これらのことと「法」の失効をふまえ、同和地区、出身者に限定した事業は終了すべきであるとし「今後は対象に限定せず、様々な課題をもつ人々の自己実現をはかるとの視点に立って、一般施策として取り組んでいくことが適切である」と述べている。

 どのような様々な課題があるのかをつかむために、大阪府連が最も重視しているのが「相談活動」だ。人権侵害や生活上の諸問題の悩みを抱えている人たちが相談できる機関、組織の整備を強く要求している。この相談活動を通して、同和地区住民をはじめ、府民がどのような悩みを抱えているかを把握することができる。その解決のために専門機関や人を紹介したり、一般施策の活用を提起したりする。この相談活動に対する自治体の見解を明らかにするように求めた。

同促・地区協改革

 次に同促・地区協改革についてである。大阪では同和行政推進に当たって、地区住民と行政が共同して取り組むために、大阪府同和事業促進協議会(府同促)が半世紀前に設立されている。各市町村には同和事業促進地区協議会がある。「法」期限切れに伴って、府同促はこの四月から大阪府人権協会と改称、各地区協議会も人権協会などの名称になる。その改革に当たっては、周辺地域を含む様々な相談活動を通じて、地域住民の実態・ニーズの把握、自立支援のための一般施策の普及・定着、地区内外住民の交流促進を通じてのコミュニティーづくりなどの機能を担うことなどを要求。同促・地区協を「同和問題解決をはじめとする人権施策推進のための協力機関として位置づけること」を迫った。

 このほか大阪府が検討している人権諸事業に関して、総合生活相談、就労支援、人権侵害ケースワーク事業、子育て支援、学ぶ権利を守るための進路選択支援、生活習慣病克服モデル事業などに取り組むように求めた。また部落を有しない自治体の同和行政の進め方についても追及した。

法なき同和行政新時代

 これらの要求に対する自治体側の回答は、一部を除いてほぼ同様だった。それは「一般施策の活用、創造」を柱とする同和・人権行政の積極的な展開をという大阪府連の要求に応えるものであった。主な回答をかいつまんで見てみよう。

 まず「差別ある限り同和行政を推進すること」を改めて再確認。差別に対する正しい現業認識を得るためにも、二〇〇〇年実態調査の結果を第一次、第二次の報告書として早急にとりまとめることを確約した。

 一般施策の積極的な活用については、これまで以上に地元との協議や連絡を密にし、既存制度の活用はもちろん、拡充・創設に努力すると言明。またこれからの同和・人権行政推進に当たっては、行政ニーズを的確に把握するために相談活動、相談体制の確立が非常に重要であるという見解を示し「内容面、体制面、予算面とも充実したい」と回答。

 同促・地区協については、各自治体から「人権行政としての同和行政を積極的に展開していくために今後も同促・地区協は不可欠である」と表明された。また同和行政の推進体制を充実することはあっても、縮小することはないことを確認した。他の提起に関しても、大阪府連の要求にそって努力することをほとんどの自治体が確約した。

 「法」後の同和・人権行政を巡っては、各自治体の対応は様々なようだ。積極的なところと、そうでないところでは大きな差がある。大阪は前者にはいるといわれているが、本当にそうなのかどうかは、これからの取り組みにかかっている。「法なき同和行政新時代」という“未知の世界”に入っていく。無事に新世界にたどりつけるのか、部落解放同盟、行政の責任、役割は重大だ。