「地域改善対策特別措置法」が三月で失効し、三三年間に及んだ「特措法時代」が終わった。四月から「法なき新時代」にはいったわけで、同和行政はもとより、部落解放運動も新時代に対応した運動の構築が急務となっている。新時代における運動の航海図を描くために不可欠なのは、正しい時代認識だ。時代の特徴、方向を的確に把握し、それを運動に反映していかなければならない。
現代を特徴づけるキーワードの一つはいうまでもなくIT革命である。部落解放同盟でも、ホームページを開設したり、パソコンによるネットワーク網をつくったりしているところが増えてきている。自分たちの活動や考え方を広く知ってもらうこと、同時に他から様々な情報を得ることは非常に重要だ。部落問題の啓発活動も今やこのことを抜きに考えにくくなったきた。大阪で昨年一二月に発刊されたCD-ROM「楽しいふらっと教室 みんなで考える人権」もIT時代の新しい教材だ。
この教材はパソコン上のアニメーションを用いたゲームで、採用面接などをバーチャルに体験することによって、自分の“人権感度”を知ることができる。とかく固苦しくなりがちな人権学習、これをゲーム感覚でこなし、明るく気軽に学べるようにとつくられた。
制作したのはニューメディア人権機構(理事長・武者小路公秀元国連大学副学長)。二〇〇〇年秋、部落解放同盟大阪府連が各界に働きかけて設立した。設立に至る経過はこうだ。
高度情報社会における運動のあり方を追求してきた大阪府連は一九九九年、ホームページ「人権情報ネットワークふらっと」を開設した。「ふらっと」は英語で、水平を意味しており、同時に、ふらっと気軽に利用できるようにとの思いが込められている。部落問題をはじめ、障害者問題、高齢者問題、性差別など人権に関する情報をタイムリーに発信していこうというもの。ほぼ毎日新たな情報を発信しており、月平均六万以上のアクセスがある(アドレスは http://www.jinken.ne.jp)。
この「ふらっと」を中心に、さらに様々な情報機能を加えて人権啓発活動を展開していこうと設立されたのがニューメディア人権機構である。知事、大阪市長、部落解放同盟大阪府連委員長ら各界の代表六人が設立呼びかけ人になり、行政、労組、企業、教育、人権団体など約六〇団体の賛同を得て発足した。
この人権機構が新しく制作したのがCD-ROM「みんなで考える人権」だ。加盟団体のメンバーが“知恵”をだしあってつくった。
このデジタル教材は三つのゲームからなっている。「私の町再発見」は就職、結婚の際の調査、不動産の売買、金融、スポーツクラブの利用など、町で日常的に繰り広げられていることについて、「問題あり」「問題なし」の○×形式の質問に答えていくもの。
「いけない面接」は女子学生、男子学生、中途採用者などの採用面接のやりとりを通して、男女雇用機会均等法、セクハラ、ILO一一一号条約などを学び、公正採用について考える。
「ちがいのちがい」は社会、家庭、学校などで日常的に体験することについて、人権の視点からみて「あってもいいのか」「あってはならないのか」、その理由を考えるカードゲームだ。
各設問には、考え方のヒントと同時に、どこが問題なのかについての解説。さらにそれらに関する資料も参照できるようになっており、より深く学びたい人には、専門的な知識を身につけることにも役立つようになっている。
制作に携わった部落解放同盟大阪府連の機関紙編集長で、ニューメディア人権機構のスタッフである吉村憲昭氏は「様々な人権問題を考え、楽しく学べる新感覚のデジタル教材です。ホームページ『ふらっと』で、デモ版が試せるので、ぜひ一度挑戦してください」といっている。
また大阪府の太田知事も「このCDはわかりやすく、楽しく学べるように工夫された人権の二一世紀にふさわしい教材です」と推薦の言葉を寄せている。さらに部落解放同盟の組坂委員長も「様々な出来事をゲーム形式で体験するうちに、自分の人権感覚に気づかされる、これまでにない教材」といっている。
すでに東北から九州まで多くの購入申し込みや問い合わせが相次いでいる。問い合わせはニューメディア人権機構(電話〇六―六五七六―三九七七、FAX〇六―六五七六―三九八八)。「ふらっと」からも申し込むことができる。単価三千円。
IT時代に対応した今回のデジタル教材。ホームページ「ふらっと」。さらに大阪府連は二年前の夏、府連の事務所と府連全支部を結ぶコンピューター・ネットワークをつくった。これによって‡@このネットワークを通して情報を即座に府連、支部間で送ることができる‡A情報を共有化できるようになった。必要な情報を収集、管理し、ネットワーク上で見ることができる‡B集会、行事などの日時、場所、内容などをいつでも簡単に知ることができる‡Cインターネットを活用しているので、あらゆるホームページからの情報収集やEメールのやりとりが容易になった――などが可能になった。
以上のようなIT時代の取り組みは単に人権情報を流したり、伝達のスピード化をはかったりするだけのものではない。「人権の二一世紀」を構築していくうえで、必要な、重要な情報を発信していくことが求められている。そこでなによりも問われるのは“情報の質”だ。そうした意味からも、このデジタル教材はそれに答える“新素材”だ。一層内容を充実させようと、次なる努力が払われている。
大阪の官民一体でつくられたニューメディア人権機構。「法」なき新時代、新世紀に向けて着実に前進している。