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2011.05.30
書籍・ビデオ案内
 

部落解放研究191号(2011.03)

非人・非人番の生活世界

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もくじ

特 集

天王寺村における転びキリシタンと類族の動向 → 全文PDF

-要約-
 本稿は、大阪教育大学附属図書館が所蔵(『続 悲田院長吏文書』所収)する「存命并死失帳」を中心に、天王寺村の悲田院垣かい外と に預けられた転びキリシタンの実態や、彼らにつながる類族の動向を元禄期と安永期の二つの時期から探った小文である。あわせて、同様に天王寺村に在住していた転びキリシタン左兵衛とその類族の動向についても検討を加えた。

小野田一幸
摂河の在方非人番と在方小頭  → 全文PDF

-要約-
 2008年の学習指導要領改訂の政策的ねらいは、「道徳の時間」を中核とするナショナルな心情訓練と心理操作による道徳教育の強化にある。グローバル化時代の今、なぜ特設道徳を強化するのか。その理由として、1958年の道徳の時間特設での「日本人の育成」というキーワードに着目し、排外的ナショナリズムへの傾斜を指摘する。さらに新自由主義的政策がまねいた現在の社会的危機を、新保守主義で糊塗しようとする教育改革の一環であることを論じる。この内包した矛盾を克服する視座こそ、人権教育にあることを提起している。

中尾健次
紀州藩松坂領における非人番及び惣廻りについての小考察  → 全文PDF

-要約-
 紀州藩本藩及び同藩田辺領における非人番及び惣廻りの存在形態や職務等についての研究は、一定、進められてきたが、同藩松坂領のそれらについては実態の解明がほとんど進んでいなかった。そこで、本藩及び田辺領における先行研究を参照・比較しながら、畿内近国の非人番研究の成果も踏まえつつ、松坂領における非人番及び惣廻りの成立時期・配置の仕方・職務内容・職制と命令系統・職務遂行の様子・収入と住居について明らかにしようとした。

寺木伸明
論 文
伊予小松藩における「かわた」の尋ね方・召捕り・留置について
『伊予小松藩会所日記』の被差別民関係記述より → 全文PDF

-要約-
「かわた」の警察業務の実態を明らかにしたい。伊予小松藩には、『伊予小松藩会所日記』という藩の責任者が記述した史料が残っている。この史料の「かわた」の御用記述から、「かわた」の警察業務の内、尋ね方(探索)・召捕り(逮捕)・留置(勾留)を、多くの事例を分析して、それぞれの実態を明らかにする。

水本正人
森秀次と融和運動  → 全文PDF

-要約-
 森秀次は部落出身の政治家・融和運動家として知られているが、本稿では彼の融和運動へのかかわりを中心に考察する。彼は融和運動の表舞台で活躍したが、地元で部落改善(地方改善)に取り組むことはほとんどなかった。また、彼は当時の融和運動家と同じように天皇主義で、差別の撤廃も「聖旨」であることを強調し国体護持を優先させるものであった。

北崎豊二
佐野学における唯物史観の受容と部落問題の発見  → 全文PDF

-要約-
 「特殊部落民解放論」で知られる佐野学は、日本共産党がはじめて部落差別の完全撤廃を要求した「1924年2月の日本共産党綱領草案」の起草にも大きな役割を果たした。本稿では、佐野が部落問題を発見する脈絡について、日本における唯物史観の受容とその日本史研究への適用過程を踏まえて明らかにしたうえで、「1924年2月の日本共産党綱領草案」において部落民が階級として把握される理論的背景を示したい。

黒川伊織

高知県水平社と国沢亀 → 全文PDF

-要約-
 高知県水平社の1920年代の運動は、演説会や糺弾闘争が中心で、小説『南国』の差別糺弾闘争では東京府水平社との共同闘争を展開した。委員長の国くに沢さわ亀すすむは栗須七郎や前田平一、有馬頼寧らとつながり、純水平運動グループに属して運動をおしすすめた。国沢は全水第5回大会では反ボル派の先頭に立ったが、その後、水平運動から離反していき、それとともに高知県水平社の運動も終焉した。

吉田文茂
編集後記

 今年度から本誌『部落解放研究』が年3回の刊行となった(年間の総字数は前年度なみとなる)ことは既報のとおりだが、そのうち1号を歴史部会で組織した編集委員会が編集することになった。今号はその初めての成果である。
  経験不足や研究所担当職員との分担連携の不十分さのため、編集の過程においては混乱なしとはせず、執筆者の皆様には少なからぬご迷惑をおかけした。この場を借りて、感謝とおわびとを申しあげる次第である。
  今号は、「非人・非人番の生活世界」と題して特集を組んだ。ちなみに、本号特集の執筆陣が中心になって編纂された『続 悲田院長吏文書』は、さきに出された『悲田院長吏文書』の編纂後に神戸市立博物館で見つかった出所を同じくすると考えられる史料群を中心に、関係史料を翻刻したものである。正編はすでにひろく研究者のあいだで活用されており、これからは一体の史料集として利用されていくことになるだろう。往時とは異なり、論者にも交通が見られるようになったが、それにしても、あらためて史料集編纂の果たす役割の大なることを感じる。
  なお、個別論文の紹介や批評をここでは展開しない。各論文の冒頭に執筆者自身による要約が掲げられているので、ご参照願いたい。
  編集体制についてもさまざまな意見があり、改善をめざしてさらに議論をたたかわせつつ、理想と現実とのあいだのどこかに着地点を求めていくことになるであろう。歴史特集号の編集委員会もその意味ではいわば暫定体制なのではあるが、折角の機会なので、これまで以上によりひろく、いわゆる部落史研究だけでなく、各界に
一石を投じるような特集も構想していきたい。 (廣岡浄進)

執筆者一覧

小野田一幸(おのだ・かずゆき)  神戸市立博物館学芸員
中尾健次(なかお・けんじ)  大阪教育大学教員
寺木伸明(てらき・のぶあき)  桃山学院大学特任教員
水本正人(みずもと・まさひと)  八幡浜部落史研究会会長
北崎豊二(きたざき・とよじ)  大阪経済大学名誉教授
黒川伊織(くろかわ・いおり)   神戸大学大学院総合人間科学研究科博士後期 課程修了(2010年9月)
吉田文茂(よしだ・ふみよし)  高知県部落史研究会会員