特 集 |
日本の識字学級の現状と課題
「2010年度・全国識字学級実態調査」の結果から→ 全文PDF
-要約-
本論の目的は、「 2010 年度・全国識字学級実態調査」の結果から、日本の識字学級の現状と課題を明らかにすることである。結果として、識字学級は過去に比べて減少しているものの、新しく開設される識字学級もあり、学習者の多様化も進んでいることがわかった。識字学級は決して「消えゆくもの」ではなく、変わりゆく時代状況のなかで、新たな役割を果たそうとしているのである。 |
棚田洋平 |
識字・日本語教室における理念の継承と再構築のあり方
大阪府の先駆的な二つの事例から
→ 全文PDF
-要約-
本稿では、識字教育的な理念のもと、教室の再構築を行った二つの識字・日本語学習支援活動実践のなかで「居場所づくり」という理念がどのように実現されているかを記述し、日本語教育の立場からその意味解釈を行う。そして、それをとおして、新しい社会的状況をむかえている識字・日本語教育の将来のあり方を展望することを試みる。 |
新矢麻紀子 |
論 文 |
道徳教育と人権教育を考える → 全文PDF
-要約-
本稿は、道徳教育研究者の視点からの道徳教育と人権教育についての考察である。まず、筆者の立場が示されたあと、日本の現在行われている道徳教育の特徴が解説され、それ以外のやり方として、モラルジレンマ授業やピアジェの考えが取り上げられる。つぎに、人権教育についての考えが示され、望ましいことの中にも「差別の芽」があるということが示される。ついで、道徳教育と人権教育の関連が、人権をベースにするという視点で考察されている。 |
林 泰成 |
イギリスのシュア・スタートと日本の課題
貧困問題と就学前のワンストップ機能 → 全文PDF
-要約-
イギリスのシュア・スタートは、子どもの貧困と社会的排除を撲滅することを目的とし、就学前の子どもとその親を対象としている。 1999 年に開始され、地域プログラムとチルドレンズ・センターの 2 段階で実施され、幼児教育・保育、保健、家族支援を一体的に提供するワンストップ機能が促進された。しかし 2010 年の政権交代とともに状況は変化している。 |
埋橋玲子 |
地域主権の動向と課題 → 全文PDF
-要約-
地方分権改革が進むほど、自治体はその政策的主体性を鮮明にせざるを得なくなる。それは、自治事務としての政策自己責任が重くなるだけではなく、政策説明責任も重くなるということである。分権化のプロセスは、政府間の分権化のみならず、行政内部の分権化と市民社会、地域社会への分権化に向かうことを必然とする。さらに、市民・地域社会への分権化は、市民社会における人権課題の顕在化ともつながってくることに留意したい。 |
中川幾郎 |
八尾市営住宅調査にみる改良住宅団地の課題と展望 → 全文PDF
-要約-
大阪府八尾市による市営住宅実態調査をもとに、部落コミュニティの現状を検証した。結果、世帯の高齢・小規模化と低所得層の集中、定住型コミュニティにおける見守りシステムの存在と関係性が深いなかで生じるモラルの問題などが明らかになった。定住型コミュニティにおける住宅市場にミスマッチが生じており、行政施策への反映と地域価値の転換を促すコミュニティ事業の重要性を述べた。 |
寺川政司 |
部落の若者の部落問題意識と部落出身者としてのアイデンティティ
部落青年の部落問題認識調査から → 全文PDF
-要約-
本稿は、被差別部落の若者を対象とする量的調査から、彼/彼女らの社会意識・部落問題意識と、部落出身アイデンティティの現状を明らかにすることを目的としている。分析の結果、部落出身アイデンティティは、部落解放運動によって獲得され、継承されてきた側面を指摘できる。また、社会意識は全体的に私事化傾向が見られるものの、社会への関心の高さや、社会変革が可能であるという意識が部落出身者としての意識の強さと関連しており、社会的存在としての部落出身アイデンティティが浮かび上がってきた。 |
内田龍史 |
人権CSRガイドライン
自己診断を通じて知るマネジメントとパフォーマンスの達成度 → 全文PDF
-要約-
2008 年末から約 2 年の議論を経て、『人権CSRガイドライン:自己診断を通じて知るマネジメントとパフォーマンスの達成度』を刊行した。本ガイドラインは、国際的なCSRの動向において人権の視点が主流化するなかで、「人権CSR」の実現、すなわちCSRの一項目としての「人権項目」ではなく、人権という視点からCSRを見直し、より持続可能な企業経営を実現することを目指して作成されたものである。ガイドラインは、体制とPDCAプロセスを中心とした「人権CSRマネジメント」、およびステークホルダーの視点からパフォーマンスに注目した「人権CSRパフォーマンス」の二つから成る。初版である今回は、人権CSRの対象となる問題や課題の広さを示すことを第一の目的とし、対象範囲を横断的にカバーしたチェックポイントの設定を心がけた。本ガイドランが、日本企業が人権CSRを実現するうえでの一助となることを願っている。 |
菅原絵美 |
ブックレビュー |
近年の学力問題研究をめぐる動向 → 全文PDF
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前馬優策 |
編集後記 |
今回の特集は「全国の識字学級実態調査結果」である。一つは棚田洋平「日本の識字学級の現状と課題─「 2010 年度・全国識字学級実態調査」の結果から」で、昨年実施した全国調査結果( 22都府県 198 学級)の分析で、もう一つは新矢麻紀子「識字・日本語教室における理念の継承と再構築のあり方─大阪府の先駆的な二つの事例から」で、大阪府内の先駆的な「A市識字・日本語教室」、B国際交流協会「Bにほんご」の分析である。 2012 年度が最終年となる「国連識字の 10 年」、そして本年実施される OECD の国際成人力調査( 2013 年結果発表)といった国際的な成人教育の動向のなかで、日本の識字学級、日本語教室、夜間中学校(公立中学校夜間学級)や公民館等での「学びなおし」の営みは、今後、どのような展望と課題をもつかを検討する一助となればと考える。行政分野では、中川幾郎さんの「地域主権の動向と課題」をぜひ一読されたい。現在、全国各地で「地域主権」「都構想」の旗のもとポピュリズム(大衆迎合主義)が跋扈している。中川さんは本論で「分権とは、行政権、財政権、立法権を、より現場に近いところに移転すること」「条例による小学校区単位の住民自治協議会への分権と行政現場への分権が本当の分権改革」「このような市民現場では必ず人権が問われてくる」「国際人権条約上の基準の共有と徹底が重要」等の指摘をしている。人権分野では、 2 年間にわたり当研究所企業部会で検討してきた「人権 CSR ガイドライン」を菅原絵美さんがまとめ、昨年発行したISO(国際標準化機構) 26000 (社会的責任規格)に対応した具体的指標を、「マネジメント」と「パフォーマンス」に分けて展開している。環境とコンプライアンス主導の日本企業が、人権分野でも大きな一歩を踏み出せるかどうかの試金石
と言える。
(中村清二)
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執筆者一覧 |
棚田洋平(たなだ・ようへい)
大阪大谷大学非常勤講師
新矢麻紀子(しんや・まきこ)
大阪産業大学准教授
林泰成(はやし・やすなり)
上越教育大学教授
埋橋玲子(うずはし・れいこ)
同志社女子大学教授
中川幾郎(なかがわ・いくお)
帝塚山大学大学院教授
寺川政司(てらかわ・せいじ)
近畿大学准教授
内田龍史(うちだ・りゅうし)
尚絅学院大学講師
菅原絵美(すがわら・えみ)
大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程
前馬優策(まえば・ゆうさく)
大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程
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