特 集 ①
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人権教育・啓発に関する基本計画改定の課題→ 全文PDF
-要約-
本稿は、人権教育・啓発に関する基本計画が、国内外の状況の変化のなかで改定の必要に迫られていて、新たな内容がどのようなものでなければならないかを提起するものである。人権教育・啓発は、人々が権利学習により社会に働きかけて問題を解決し、人権尊重社会を築くためのものである。人権実現の責務を有する人々の研修と、その養成課程における人権教育の位置づけが重視されねばならない。 |
上杉孝實 |
「普遍的な視点」と「個別的な視点」の統合
効果的な人権教育・啓発の推進に向けて
→ 全文PDF
-要約-
人権教育・啓発の手法については、「普遍的な視点からのアプローチ」と「個別的な視点からのアプローチ」があるとされ、両者を統合する必要性が繰り返し指摘されてきた。しかし実際には、これら二つのアプローチの相互関係や具体的な統合のあり方が論じられることはあまりなかった。そこで本稿では、すでに取り組まれてきた人権教育・啓発の具体的事例をふまえながら、普遍的視点と個別的視点の効果的統合の可能性について考察している。
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平沢安政 |
人権教育・啓発基本計画改定の視点
国際社会における人権教育の進展のなかで
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-要約-
1990年代以降、段階を追って国際社会における人権教育の取り組みは発展してきた。人権教育・啓発基本計画の改定にあたっても、国際社会における枠組みや、そこで強調される視点について留意する必要がある。とりわけ「人権教育のための世界プログラム」第一段階(2005~2009)および第二段階(2010~2014)で、市民に対する人権教育だけでなく、市民の権利を実現する「責務の保持者」の研修が重点領域とされたことが重要である。 |
阿久澤麻理子 |
子どもの人権保障の視点から見た人権教育・啓発基本計画→ 全文PDF
-要約-
本稿は子どもの人権保障の視点から、主に学校教育に関する諸課題を中心に、今後の人権教育・啓発基本計画策定にあたっての検討課題を整理することを目的としたものである。また、その検討課題の整理にあたっては、「子どもの課題の個別的・普遍的な側面」「理念・推進方策」「条件整備」「人権に関する相談・救済と教育・啓発の関係」「計画の実施主体、担い手」の5点を中心に作業を行った。 |
住友 剛 |
特 集 ② |
東日本大震災における災害ボランティア活動が拓く可能性→ 全文PDF
-要約-
本稿では、まず、筆者自身が関わってきた災害NPOの活動を通して、東日本大震災における災害ボランティアの活動を紹介した。次に、災害ボランティア活動が、現代の日本社会を変革していく可能性について、事例と対応させながら整理した。最後に、災害ボランティアを含む社会について展望を示した。 |
渥美公秀 |
人権のまちづくりから見た復興支援の現状と課題
東日本大震災被災地報告→ 全文PDF
-要約-
東日本大震災から3カ月経過した現状に関して、復興構想会議のビジョンと被災地支援からみた実態を報告。特に阪神・淡路大震災の経験から、被災者の環境移行について、従前のつながりを担保した生活再建の重要性を指摘し、具体的な仮設住宅の実践事例とともに恒久移行型仮設住宅を提案している。そして、人権のまちづくりの経験が、今後の被災地における地域包括型支援や見えにくい被災者支援にとって重要であることを指摘している。 |
寺川政司 |
震災・学校支援チーム(EARTH)の活動
阪神・淡路大震災の教訓を生かす→ 全文PDF
-要約-
震災・学校支援チーム(EARTH)は、阪神・淡路大震災に際して、全国の教育関係者から受けた支援に応えるため、震災等があれば教育復興を支援する、防災についての専門的知識と実践的対応能力を備えたチームとして、兵庫県教育委員会が設置した。その運営に参画している者の立場から、これまでの活動の概要と技量・力量向上に向けたとりくみを報告する。 |
泉 雄一郎 |
論 文 |
これからの人権教育・啓発の課題は何か
近年の地方自治体における人権意識調査結果から→ 全文PDF
-要約-
近年に実施された複数の市民人権意識調査において、市民の差別意識と人権意識を測定する尺度を構成し、それらを用いて分析した結果、以下のような知見を得た。①差別の社会化経験により差別を肯定する考え方を内面化した場合、その後、人権問題を学習しても反差別意識や人権推進意識を高める効果は限定的であること、②これまでの人権問題学習は「被差別者責任論」の否定に効果をあげてきたが、③忌避意識の低減に効果があったとは言えない。 |
神原文子 |
フランス都市社会政策と社会的不利地区→ 全文PDF
-要約-
本稿では、1980年代に発展したフランスの都市社会政策の形成と現状の考察をつうじて、社会的不利地区の特徴を明らかにする。事例として取り上げるパリ市の優先地区では、2005年に全国規模で発生した暴動が大きく広がることはなかった。優先地区の都市社会問題はしばしば移民と結びつけられているが、その実情はメディアをつうじて普及しているイメージとは異なっている。 |
川野英二 |
報 告 |
反差別国際運動インターン報告
人種人種差別撤廃委員会第78会期と国連人権理事会第16会期に参加して→ 全文PDF
-要約-
筆者は、反差別国際運動(IMADR)ジュネーブ事務所のインターンとして2011年2月中旬から3月末に開催された人種差別撤廃委員会第78会期および人権理事会第16会期に参加した。その知見をもとに、インターンシップの活動および筆者の関心領域である植民地主義に関して報告する。 |
大城尚子 |
編集後記 |
第一特集は、2000年制定・施行の人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(人権教育・啓発推進法)の第7条の規定に基づき、2002年に閣議決定された人権教育・啓発に関する基本計画(以下、基本計画)の改定を求める視点について論じる。「国内の社会経済情勢の変化や国際的潮流の動向等に適切に対応するため、必要に応じて本基本計画の見直しを行う」とされながら、現実には2011年4月に「北朝鮮当局による拉致問題等」が付加されたにとどまる。上杉論文は、総論的な観点から、続く平沢論文は、効果的な人権教育・啓発の手法における「普遍的視点」と「個別的視点」のアプローチの統合から、阿久澤論文は、国際社会における人権教育の枠組み・視点、とりわけ「人権教育のための世界プログラム」第一段階・第二段階に照らして、住友論文は、子どもの人権保障の視点から主に学校教育について、基本計画改定の課題をそれぞれ提起する。
第二特集は、甚大な被害をもたらした東日本大震災から8カ月、被災者の人権の立場から復興支援のあり方について、すでに取り組まれている実践をもとに考察する。渥美論文はボランティア活動について、寺川論文は人権のまちづくりについて、泉論文は「震災・学校支援チーム」の取り組みについて、それぞれ述べる。
ほかに、各自治体の人権意識調査にみる人権 教育・啓発の課題を論じた神原論文、社会的不利地区を中心に展開されるフランスの都市社会政策を紹介する川野論文のほか、IMDR のインターン活動に関する大城報告を掲載した。
3月の歴史特集号は、「『国民融合論』の成立と近現代部落史研究」「部落史研究における身分・階級・物語・コモンズ」の各報告にもとづく座談会を中心に構成の予定である。(熊谷愛)
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執筆者一覧 |
上杉孝實(うえすぎ・たかみち)
京都大学名誉教授
平沢安政(ひらさわ・やすまさ)
大阪大学大学院教授
阿久澤麻理子(あくざわ・まりこ)
大阪市立大学大学院教員
住友剛(すみとも・つよし)
京都精華大学准教授
渥美公秀(あつみ・ともひで)
大阪大学大学院教員/(特)日本災害救援ボランティアネットワーク理事長
寺川政司(てらかわ・せいじ)
近畿大学准教授
泉雄一郎(いずみ・ゆういちろう)
EARTH 運営委員会副委員長/兵庫県教職員組合副委員長
神原文子(かんばら・ふみこ)
神戸学院大学教員
川野英二(かわの・えいじ)
大阪市立大学大学院准教授
大城尚子(おおしろ・しょうこ)
大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程 |