特 集
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非人にとっての救いと宗教→ 全文PDF
-要約-
癩者を通して、「非人と宗教」について歴史的に見ていく。宗教が非人にとって、本当に救いになるのは、どんな場合か。非人を支えた宗教について考えてみたい。ポイントは、阿閦仏・文殊菩薩・古神道・キリストである。
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水本正人 |
「癩人小屋」の勧進と地域社会→ 全文PDF
-要約-
仙台藩の「癩人小屋」に暮らす癩者たちは、勧進で地域社会を廻在した。訪れる廻在者が多様になるにつれ、その行為は強引なものと認識されるようになる。それに対し、癩者たちは、自らの由緒と宗教性、そして「自国」出身であることを主張して、勧進の正当性を訴えた。その後ろ盾となったのは、自らの病の体験に根差した宗教的役割への自負であった。勧進をめぐる癩者と地域社会との緊張関係を読み解くことにより、近世社会における癩者の位置を探った。
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宮前千雅子 |
被差別部落寺院をめぐる社会的関係の様相
→ 全文PDF
-要約-
被差別部落寺院研究においては、従来の研究では制度面ばかりが注目されてきたが、本稿では在地の寺院社会における社会的関係の様相を、残された史料から明らかにしていくことを目的とした。部落寺院とどのような関係を持つかということについては、非部落の側の恣意に委ねられているのであり、そのような恣意の存在をいかに突破するのかが課題だと考えている。
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奥本武裕 |
浄土真宗の「尼講」について
紀伊国の事例から→ 全文PDF
-要約-
仏教を含め、宗教は女性に救済と解放をもたらす一方で、女性を差別し、抑圧してきた。本稿では、近世における女性と仏教をめぐる問題を解明するために、女性の信仰組織である浄土真宗の尼講に着目した。近世の紀伊国におけるかわた身分に関する史料の分析から、講という組織を通じて女性門徒が寺院や教団を経済的に支えていたことを指摘した。
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矢野治世美 |
論文 |
自主的融和団体・高知県自治団の軌跡→ 全文PDF
-要約-
1927年に結成されたと考えられる高知県自治団は、団長の植村省馬を中心にしながら部落差別撤廃を旗印に掲げ、「内」には覚醒を「外」には融和を求める運動を展開していった。各界「名士」の賛同を得つつも、「官」から財政援助を受けることなく、最初から最後まで、在野の自主的融和団体であり続けた。また、官製融和団体の高知県公道会や高知県水平社とは一定の距離を保ちつつ、自主的な活動を展開するが、高知県水平社の活動が停滞していくなかで、高知県自治団は水平運動家の活動の場の受け皿ともなった。ただ、財政面では活動資金の大半を植村省馬個人に依存していたため、財政難と植村の県外への転出によって高知県自治団の活動は数年で終了することになる。
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吉田文茂 |
書評 |
藤本清二郎『近世身分社会の仲間構造』→ 全文PDF
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吉田 勉 |
朝治武・守安敏司編『水平社宣言の熱と光』→ 全文PDF
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吉田文茂 |
乾武俊『能面以前 その基層への往還』
仮面・芸能・被差別民の詩学→ 全文PDF
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友常 勉 |
編集後記 |
本号は「近世被差別民と宗教」をテーマに歴史特集を組み、4本の論文を掲載した。いずれも、力作である。
このうち2本は「癩者」をテーマとしたものとなった。水本論文は古代から近世にいたる地位を通史的に整理したもの、宮前論文は近世・仙台藩における「癩者」の地域社会における姿を追究した論文である。
奥本論文は、地域社会における被差別部落寺院の在地における社会的関係についての歴史研究の課題と方法について、奈良県の事例を踏まえ、近世後期から近代初頭を念頭に提起している。
矢野論文は、浄土真宗における女性の信仰組織である「尼講」の実態解明を、近年、部落史の史料発掘・紹介と研究が著しく進展している和歌山県(紀伊国)を中心に試みている。
特集以外には、吉田論文と、書評を3本掲載した。書評で取り上げた『能面以前』(乾武俊)は、他の二つと違って私家版なので一般の書店で求めることは叶わないが、これまで著者によって永年追究されてきたテーマの集大成とも言うべき内容であり、書評として取り上げる意味があると考えた。
出版事情が相変わらず厳しいなかでも、被差別民史あるいは部落問題・水平運動などに関する著書が、近年も少なからず刊行されている。可能な限り本誌でも取り上げることで、その研究成果が広く知られることを願うとともに、少
しでも著者ほか関係者の労に報いたいと思う。書評で取り上げるべき著書に関して、読者の皆さんからも広くご意見をお寄せいただきたい。
(渡辺俊雄)
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執筆者一覧 |
水本正人(みずもと・まさひと)
八幡浜部落史研究会会長
宮前千雅子(みやまえ・ちかこ)
関西大学人権問題研究室委嘱研究員
奥本武裕(おくもと・たけひろ)
奈良県立同和問題関係史料センター係長
矢野治世美(やの・ちよみ)
和歌山の部落史編纂会事務局
吉田文茂(よしだ・ふみよし)
高知県部落史研究会会員
吉田勉(よしだ・つとむ)
東日本部落解放研究所事務局長
友常勉(ともつね・つとむ)
東京外国語大学准教授 |