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2015.05.26
書籍・ビデオ案内
 

部落解放研究198号(2013.07)

人権教育と道徳教育を考える
部落における青年の雇用と生活(下)

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もくじ

特 集 ①

特集にあたって→ 全文PDF

高田一宏
人権の視点に立った道徳教育の推進
国際的な市民性教育の文脈のなかで→ 全文PDF

-要約-
 本稿では、学習指導要領の改訂や人権教育の第三次とりまとめ等の動きがある中で、人権教育と道徳教育との関係性を再考する必要性を提起している。人権教育と道徳教育は相容れないものではなく、人権教育の観点から道徳教育の内容項目を読み直したり、重ねて考えたりすることは十分に可能である。その際、国際的な市民性教育の文脈に位置づけて、人権教育と道徳教育の関係性を整理していく必要がある。

平沢安政
人権教育と道徳教育の関連 → 全文PDF

-要約-
 これまでの人権教育では、「価値的・態度的側面」に関する実践は行われているものの、スキルなど、行動の仕方に関するものに偏り、価値志向的で内面的な人権感覚の育成が弱かったのではないか。道徳教育や道徳の時間は、行いや行動ではなく、それらを支える道徳性や道徳的実践力という内面的な資質を養う教育活動である。人権教育において、知識やスキルの習得だけでなく、道徳的価値の自覚を深め、道徳性や道徳的実践力を養う道徳教育や道徳の時間の役割をしっかりと位置付けることで、子どもたちは、人権を大切にする生き方を自らの生き方として育んでいくことができる。また、このアプローチは、人権教育における普遍的視点と個別的視点をつなぐものでもある。そのためにも、人権教育で育みたい価値観を道徳教育とのつながりでしっかりと捉え、道徳教育や道徳の時間の特質を押さえながらその充実を図ることが大切である。

島 恒生
NHK『道徳ドキュメント』の制作に関わって → 全文PDF

-要約-
 本稿では、教科番組『道徳ドキュメント』の制作の経緯とねらい、学校現場における反響や学習教材としての課題について、制作者の立場から述べている。番組作りに際しては、「子どもたちに考えさせる」こと、子どもたちの気持ちを「ざわつかせる」内容にすることを心がけている。また、「人の生き様」をテーマにすることで、子どもたちの自己肯定感を高めることも意図して、番組作りを進めている。

福井 徹
道徳教育と人権教育→ 全文PDF

-要約-
 道徳教育と人権教育は基本的に並立の関係にあり、重なり合う部分を有するということを、筆者の業務経験(前半部分)とある学校の実践事例(後半部分)から示している。道徳教育、人権教育ともに教育活動全体を通じた取組であり、さらには家庭・地域との協働、校種間連携を図りながら取組を進めていくことが求められるという点においては同様である。また、学習の目標や内容、指導者(教師)に求められる資質・能力についても共通する部分は多い。

柴原弘志

生きる力の育成
キャリア教育、道徳教育、人権教育の関係性→ 全文PDF

-要約-
 本稿では、キャリア教育、道徳教育、人権教育、それぞれで教育目標が異なっており、それらにあわせた教育実践を展開していく必要性があることを指摘している。人権教育やキャリア教育は、実践力や行動力の育成、道徳の時間はそうした実践や行動をするために必要となる「内なる力」を育むことが目的となる。一方で、それぞれの教育が最終的に目指していることは「生きる力の育成」という点で共通しており、各教科間の整合性をはかり、計画的にそれぞれの教育を企画・実施していくことが求められる。

川﨑雅也
特 集 ②

引き継がれる困難
部落の若者の生育家族/学歴/職業達成→ 全文PDF

-要約-
 「全国部落青年の雇用・生活実態調査」の量的データから、部落の若者が生育家族から学校を経て現在へ至るプロセスを描き出した。生育家族における困難は、そこで生まれ育った若者に低い学歴達成を経由して不安定就業をもたらしがちであった。女性では、不安定就業に加えて離別経験の多さとも結びついていた。817人の部落の若者の生活史から描き出されたのは、貧困や生活の不安定さが世代を超えて再生産されていく姿だった。

妻木進吾

部落の青年にとっての部落解放運動
運動への参加・継続要因→ 全文PDF

-要約-
 「全国部落青年の雇用・生活実態調査」のヒアリング調査データから、部落解放運動に参加している青年の、運動への参加・継続要因について検討を行った。結果、青年の多くは、部落解放子ども会活動・親、あるいは差別を受けることなどによって部落出身であると自覚し、差別をなくしたいという想いや、地元や地元を越えた仲間意識を基盤とし、そこから得られる新たな学びや出会いの経験を経て、運動を継続していることを明らかにした。

内田龍史

若者の被差別経験
対抗メッセージ構築の課題→ 全文PDF

-要約-
 43人の語りのうち部落差別経験を取り出して、その特徴を分析した。恋愛・結婚、就職の際、そして日常生活で、以前と同様の差別が繰り返されており、近年の「不祥事」を受けて部落を非難する意識が加わり、ネガティブなまなざしが向けられている。若い世代は、部落問題についての認識を得る機会をもたず、無防備な形で差別に直面する危険性が高まっており、誤った情報にもとづく否定的なまなざしを乗り越える対抗メッセージを構築し発信することが緊急の課題である。

西田芳正

部落青年の結婚問題
全国部落青年の雇用・生活実態調査から→ 全文PDF

-要約-
 「全国部落青年の雇用・生活実態調査」では、質問紙調査とヒアリング調査をおこなっている。ヒアリング調査では、雇用についてだけでなく、生い立ちや子ども時代のこと、家族や友人関係、恋愛や結婚についてなど、青年たちの生活全体について聞きとっている。本稿では、ヒアリング調査の結果から、部落青年の結婚の状況について考察した。

齋藤直子
資料

IEA「市民性教育国際調査(ICCS 2009)」生徒意識調査と認知テスト 解説→ 全文PDF

若槻 健

IEA「市民性教育国際調査(ICCS 2009)」生徒意識調査と認知テスト 抄訳→ 全文PDF

若槻 健・棚田洋平
編集後記

 特集①「人権教育と道徳教育を考える」は、「人権教育と道徳教育研究会」(2012年度)の成果をまとめたものである。同様の問題意識から、2010年に『部落解放・人権研究報告書No.17 人権教育と道徳教育を考える』をまとめたが、本特集はその続編にあたる。各論では、人権教育と道徳教育、あるいはキャリア教育、市民性
教育等が相互に関連するものであることが示され、それらの関係性を整理して教育実践を展開していく必要性が求められている。
  特集②「部落における青年の雇用と生活(下)」は、紀要の2012年11月号(No.196)の特集の続編である。前回は、質問紙調査の結果の分析が主であったが、今回はヒアリング調査の結果も分析している。その結果からは、部落青年が今日でも(だからこそ)抱える「厳しさ」と、そうしたなかでも生き抜いている「たくましさ」を感じ取ることができる。また、かれらの姿には、各地域の実情と日本社会の現状が反映されていることもうかがえる。次号(No.199)の特集では「若者の生活とリテラシー(仮)」を予定しているが、本特集ともおおいにかかわる内容である。
  最後に資料として、IEA(教育達成度評価国際学会)による市民性教育国際調査(ICCS2009)の質問紙の抄訳ならびに解説を掲載した。質問紙には「市民性」を測定するための質問項目が並べられており、人権にかかわる項目も多い。そういう意味では、人権教育の「効果」を測る指標としても、十分に活用できるだろう。本調
査の詳細については、紀要の2012年7 月号(No.195)掲載の「IEA の『市民性教育国際調査(ICCS2009)』の概要と結果について」(野崎志帆)で報告されているので、あわせて参照にしてほしい。

(棚田洋平)

執筆者一覧

高田一宏(たかだ・かずひろ)   大阪大学大学院准教授
平沢安政(ひらさわ・やすまさ)   大阪大学大学院教授
島恒生(しま・つねお)   畿央大学教授
福井徹(ふくい・とおる)   前・NHK 放送局『道徳ドキュメント』   プロデューサー
柴原弘志(しばはら・ひろし)   京都市教育委員会
川﨑雅也(かわさき・まさや)   貝塚市立木島小学校(前・貝塚市教育委員会)
妻木進吾(つまき・しんご)   龍谷大学准教授
内田龍史(うちだ・りゅうし)   尚絅学院大学講師
西田芳正(にしだ・よしまさ)   大阪府立大学教授
齋藤直子(さいとう・なおこ)   大阪市立大学人権問題研究センター   特別研究員
若槻健(わかつき・けん)   関西大学准教授
棚田洋平(たなだ・ようへい)   部落解放・人権研究所研究員