特集
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総論/今後の部落解放運動の方向・手法と課題→ 全文PDF
-要約-
高齢化をともないつつ人口が加速度的に減少していくなかで、部落解放運動も大きな影響を受け、運動パワーは確実に低下してきている。こうした状況を克服するために、①人口減少社会と部落差別の撤廃、②時代の特徴をふまえた運動の課題、③差別・被差別の関係性を変革する社会システムを、④ISO26000と部落差別の撤廃、⑤多様な法人を活用した運動組織を、という五つのテーマについて考察している。 |
北口末広 |
総論/差別禁止法の動向と研究会発足について→ 全文PDF
-要約-
差別禁止法はすでに多くの国で制定されているが、日本ではいまだに消極的な意見が少なくない。差別実態についての調査等が不十分で、これによる共通理解の不足がその大きな原因となっている。そして、差別禁止法の未整備が被害者をして被害を語れなくしている。このような「悪循環」を打破して法制定に道を開きたいというのが、本差別禁止法研究会を立ち上げた理由である。当面の研究会の内容としては、障害者差別解消法に関わる研究、ヘイトクライム、ヘイトスピーチに関わる研究、私的差別禁止法の必要性に関わる研究、差別禁止法の必要性の論証に関わる研究、実効性ある教育啓発に関わる研究、などがあげられる。
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内田博文 |
啓発/部落解放・人権大学講座のカリキュラムのあり方→ 全文PDF
-要約-
部落解放・人権大学講座は、部落問題等人権問題の解決への取り組みを通じて、すべての人の人権確立に向けて啓発・教育活動を推進するリーダーの養成講座である。これまでにもその改善が図られてきたが、参加層や社会状況の変化に合ったものにするために、部落解放・人権研究所の啓発部門の事業として、カリキュラムの検討を行った。自分自身にとっての部落問題を考えることから、学習支援の方法までを学ぶ内容の構築を試みた。
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上杉孝實 |
人権/人権CSR研究の成果と課題→ 全文PDF
-要約-
部落解放・人権研究所企業部会は、2004年度から人権CSR研究調査活動を開始し、①日本企業の取り組み事例を通じた現状把握、②日本企業向けの「人権CSRガイドライン」の開発、③韓国とインドといった進出先での人権CSR、と徐々に研究の対象を広げてきた。企業は、世界規模に張り巡らされたバリューチェーンのなかで、自社の経営課題として人権に取り組む(人権CSR)よう求められてきた。研究開始から10年目を迎えた現在、人権CSRの要請はますます高まっている。本稿では①から③の研究成果を紹介するとともに、今後の課題を述べる。
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菅原絵美 |
教育/人権教育と市民力
市民性教育をめぐる研究の成果と課題→ 全文PDF
-要約-
日本の人権教育について、本稿では五つのタイプに分類し、市民力を育てる人権教育をその一つとして位置づけたうえで、OECDのキー・コンピテンシー概念や中央教育審議会が提起した「学士力」概念、ならびに国際バカロレア(IB)等とも関連づけた議論を行っている。とくに、これまで初等・中等教育の枠内でとらえられる傾向が強かった人権教育のあり方について、高等教育における教育改革の動向や21世紀を生きる市民に求められる資質・技能の観点も踏まえながら考察している点に特徴がある。
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平沢安政 |
教育/学力保障と地域教育をめぐる研究の成果と課題→ 全文PDF
-要約-
本稿では、部落解放・人権研究所の教育・地域部門の研究活動を中心に、1990年代末から現在までの学力保障と地域教育に関する研究を回顧した。同和教育・解放教育の理論や実践を普遍化しようとする研究や部落内外の社会的困難層の共通課題を探る研究は盛んになっているが、めざす子ども像や教育目的論、困難を抱えた青少年の支援や社会的包摂に関する研究など、あらためて取り組むべき研究課題は少なくない。
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高田一宏 |
歴史/身分論から差別論・穢れ論・境界論・地域社会論へ
─歴史学・民俗学・人類学・宗教学などの成果
前近代部落史研究の課題と展望→ 全文PDF
-要約-
「部落史研究の課題と展望-前近代」について、戦後の部落史研究を対象に、近世政治起源説から中世社会起源説への転回、分岐する穢れ論、賤民像の転換、「死と再生」というパラダイム、などを柱としながら、歴史学・民俗学・人類学・宗教学などの成果を整理し、課題と展望を考える。
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吉田 勉 |
歴史/近現代・被差別部落の類型論に向けて
近現代部落史研究の課題と展望
-要約-
戦後歴史学の進展のなかで被差別部落史研究が果たしてきた役割と、その後の展開について検討する。とくに、1980年代以降の展開を、近現代史研究そのものの質の変化と関連づけながら論じた。博物館の世界の変化、史料集編纂の盛行など大きな流れがあるので、近現代部落史研究もさらにより一層の発展が期待される。発展の方向は様々に考えられるが、筆者としては、各地における研究の進展を踏まえた類型化の試みを提案したい。
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小林丈広 |
編集後記 |
『部落解放研究』は、大阪部落解放研究所の創立(1968年)から4年後、1972年10月に第1号が発刊された。「創刊の辞」では、研究部が設置され、「専門的研究と資料の整理を報告するには、どうしても独立した研究機関誌を必要とするに至った」と、機関誌『部落解放』とは別に、研究専門誌の発刊が望まれた背景が述べられている。その後、研究所は、1974年に「社団法人部落解放研究所」として大阪府から認可を受け、1998年に「社団法人部落解放・人権研究所」と名称を改め、そして2013年12月に内閣府認可の「一般社団法人部落解放・人権研究所」へと移行し、現在に至っている。並行して、『部落解放研究』も編集体制や頁数、判型、年間発刊号数等、内容・形式ともに変更を重ねてきたが、創刊から四十数年をかけて200号に達することができた。
本号では、『部落解放研究』200号の発刊を記念し、「人権・部落問題の課題と展望」と題して特集を組んだ。紀要全編をとおして特集を組むことは、発刊200号にして初めての試みである。「総論」「啓発」「人権」「教育」「歴史」という五つのテーマに分け、各分野における近年の人権・部落問題の動向についてまとめられている。また、各論の内容は、この間実施されてきた「差別禁止法研究会」「人権CSR 研究会」「人権教育と道徳教育研究会」「教育保護者組織のあり方研究会」「解放子ども会等のあり方検討プロジェクト」等の研究会・プロジェクトや、歴史部会等の部会活動、啓発部門事業である「部落解放・人権大学講座」カリキュラム検討会等の成果を反映したものでもある。
これらの成果を、今日の部落解放運動の課題を見定め、これからの展望を構想する手立てとしてご活用くだされば幸いである。
(棚田洋平)
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執筆者一覧 |
北口末広(きたぐち・すえひろ)
近畿大学人権問題研究所主任教授
内田博文(うちだ・ひろふみ)
神戸学院大学法科大学院教授
上杉孝實(うえすぎ・たかみち)
京都大学名誉教授
菅原絵美(すがわら・えみ)
大阪大学大学院国際公共政策研究科特任研究員、グローバル・コンパクト研究センター代表
平沢安政(ひらさわ・やすまさ)
大阪大学大学院教授
高田一宏(たかだ・かずひろ)
大阪大学大学院准教授
吉田勉(よしだ・つとむ)
東日本部落解放研究所事務局長
小林丈広(こばやし・たけひろ)
奈良大学教授
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