Home書籍・ビデオ案内 部落解放研究 > もくじ
2014.11.14
書籍・ビデオ案内
 

部落解放研究201号(2014.10)

障害者差別解消法の課題と可能性

年間定期購読(2014年度~ 2冊/4,000円+税)ご希望の方は、「お名前」「ご所属」「送付先」、「何号から」「何セット」を明記の上、FAX(06-6581-8540)まで
もくじ

 


特集

障害者権利条約からみた障害者差別解消法の意義と課題

-要約-
日本は二〇一四年二月、障害者の権利を包括的に規定する障害者権利条約の締約国になった。これに先立ち、障害者基本法が改正され、障害者差別解消法も制定された。さらに、各地の自治体では障害者差別禁止条例が制定されつつある。本稿では、障害者差別解消法が制定された背景である障害者制度改革の成果や障害者権利条約の概要を示し、これらを踏まえ、障害者権利条約からみた障害者差別解消法の意義と課題を明らかにする。

山崎公士

障害者差別解消法の実施に向けた取り組み

-要約-
障害者団体の長年にわたる障害者差別禁止法制定運動の結果、二〇一三年六月、障害者差別解消法が成立した。日本においてはじめて本格的な差別を禁止する法律の誕生である。また、差別解消法の成立を踏まえ、二〇一四年一月二〇日、日本政府は国連障害者権利条約に批准した。差別解消法には課題も多く残されており、差別や合理的配慮の内容を関係各省庁において決められる対応要領・対応指針(ガイドライン)で明らかにし、その元となる基本方針も内閣府で定められる。これらは合理的配慮の否定を含むあらゆる形態の差別を禁止している権利条約の規定と、内閣府において障害者制度改革推進会議とそれが発展解消され設立された障害者政策委員会の元に置かれた差別禁止部会意見に基づいて、直接差別や間接差別、関連差別を包含するものであるべきである。また、紛争解決のしくみも基本的には既存の相談機関等を使うこととしている。そして、地方自治体は紛争解決の体制を補完する障害者差別解消支援地域協議会を置くことができるとされているが、事例の集積や検討、相談事例によっては最低限でも斡旋程度の権限を持つものとすべきである。

崔栄繁

障害者差別解消法とインクルーシブ教育

-要約-
障害者権利条約批准のための国内法整備により、障害者基本法の改正、障害者差別解消法成立といった一定の成果もあったが、まだまだ多くの課題が存在する。今後も、さらなる法制度改革や、各自治体の条例によるインクルーシブ教育の制度化、各学校でのインクルーシブ教育の実践など、真のインクルーシブ教育―共生共学―制度への転換に向けた取り組みと努力が必要とされる。

大谷恭子

障害者差別解消法と精神障害者に対する強制医療

-要約-
障害者権利条約は精神障害者だけを狙った差別的な自由剥奪を禁止し、精神障害のある人だけが治療同意能力がないとして強制入院させることを否定している。障害者差別解消法は行政機関等と事業者に障害を理由とした差別的取り扱いを禁止しており、その禁止の中には障害者権利条約の要請が当然読み込まれなければならない。権利条約と連動させることでこの分野の制度改善を進めることが可能になる。

池原毅和

障害者差別解消推進法と自治体における課題、条例づくりの動向

-要約-
二〇一四年一月二〇日に日本政府は障害者権利条約を批准した。その批准の「要石」として制定された障害者差別解消法は、行政法的アプローチ・地域づくりアプローチを特徴としており、その運用において自治体の果たす役割は大きい。条文に則して自治体の役割を考察するとともに、一二の自治体で制定されるに至った障害者差別禁止条例の動向と特徴を概括する。それらを通じてインクルーシブな社会づくりのために、障害者当事者の声に基づく自治体の取り組みが重要であることを明らかにする。

尾上浩二

改正障害者雇用促進法に基づく差別禁止

-要約-
二〇一三年改正により、障害者雇用促進法は、障害者に対する差別禁止と雇用促進をあわせもつ性格の立法になった。日本は、障害者雇用政策において、「割当雇用アプローチ」と「差別禁止アプローチ」を採り入れたのである。このこと自体は積極的に評価すべきことであるが、本法には、間接差別禁止規定や実効性のある民事的救済規定が欠けている。また、雇用率制度が真に積極的差別是正措置の名に値しうるか否かの検討など、残されている課題も多い。

浅倉むつ子
資料

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律

 

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律案に対する附帯決議(衆議院)

 

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律案に対する附帯決議(参議院)

 

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律Q&A集<地方公共団体向け>

 

障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律案要綱

 

学校教育法施行令の一部を改正する政令 改め文

 

学校教育法施行令の一部改正について(通知)

 
論文

包摂型地域社会のあり方を考える
―被差別部落と生活困窮者支援

-要約-
二〇一五年四月から全国の自治体で生活困窮者自立支援制度の運用が始まることを受けて、被差別部落における生活困窮者支援も新たな展開が求められている。その場合、これまでの隣保館や総合相談事業のあり方や、まちづくりが焦点となるだろう。「包摂型社会のあり方調査研究会」は、これらの課題についての調査研究を行うとともに、提案を示すことをめざしている。そして、その先に「包摂型地域社会支援システム」のあり方を展望する。

福原宏幸

江戸後期における皮革の流通
―『筑前国革座記録』を中心として

-要約-
『筑前国革座記録』(以下、「本記録」という)は、文字通り、江戸後期の筑前国における革座の記録ではあるが、その座方との交渉や取引の相手方となっているのが、大坂市中の商人や同所渡邊村の皮革問屋である。それ故、本記録には、筑前国と大坂間の皮革流通の状況やそれに携わった人々の姿が活写されている。ここから、皮革の流通に果した渡邊村皮革問屋の役割を読み解くことができ、海運物流の観点からではあるが、これを拙論の中心的課題とした。

上田武司

自治体が展開する国際理解教育としてのスタディツアーの意義
―ホストとゲストの関係構築のための「フォーラム型スタディツアー」

-要約-
本稿では、自治体が展開する国際理解教育としてのスタディツアーに焦点を当て、その現状と課題について、筆者が二〇一二年からコーディネータとして携わる大阪府堺市で活動する青年育成団体インターユース堺が実施する青年育成事業の経験にもとづき分析する。そこでは、これまで見過ごされがちであった、ホスト社会とゲスト社会の相互関係について考察し、今後の自治体が展開する国際理解教育としてのスタディツアーにたいする意義を提示する。

友永雄吾
編集後記

 本号は、二〇一三年六月に成立し、二〇一六年四月より施行される「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」をテーマに特集を組んだ。従来の関連法令、諸外国や国内の動向、同法の成立の過程等をふまえながら、その意義と課題、可能性について、それぞれの専門的な見地や立場から論点整理が行われている。あわせて、関係する法令の条文等を資料として付した。
本法は、内容もさることながら、その成立の過程において、障害者権利条約策定時の基本精神Nothing about us without us !(「私たちぬきに私たちのことを決めるな!」)が反映されている点に大きな意味がある。施行後も、その精神を忘れることなく、各現場で取り組みを進めていくことが求められる。本特集をその一助として参照・活用していただければ幸いである。
さらに、特集論文・資料にくわえて、三本の論文を掲載した。
さて、二〇一四年度より、紀要の発行は年二回(一〇月・三月)とし、版型もA5版・縦書に改めた。ただし、年間の発行号数は減ったものの、一号あたりの頁数は大幅に増やしている。「差別や人権課題の解決に資する」調査・研究成果の発信媒体として、「再出発」のつもりで今後も本誌の内容の充実に努めていきたい。

(編集担当 棚田洋平)

執筆者一覧

山崎 公士(やまざき・こうし)神奈川大学教授

崔 栄 繁(さい・たかのり)特定非営利活動法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議事務局員

大谷 恭子(おおたに・きょうこ)弁護士法人北千住パブリック法律事務所所長/日本女子大学非常勤講師

池原 毅和(いけはら・よしかず)東京アドヴォカシー法律事務所所長

尾上 浩二(おのうえ・こうじ)特定非営利活動法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議副議長

浅倉むつ子(あさくら・むつこ)早稲田大学教授

福原宏幸(ふくはら・ひろゆき)大阪市立大学教授

上田 武司(うえだ・たけし)一般社団法人部落解放・人権研究所正会員

友永 雄吾(ともなが・ゆうご)国立民族学博物館外来研究員