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部落解放研究 135号掲載
黒川みどり

近代「国民国家」と差別

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 近年における「国民国家」論研究の盛行は、近代「国民国家」の抑圧性・矛盾をもっとも端的に映し出した存在として部落差別をも照射し、近代国家形成期の差別のありようや部落改善運動・水平運動の見直しを可能にした。さらには、都市史研究の成果を摂取しながら、都市下層社会における部落問題をめぐって、新たに多様な研究を生みだしてきた。

 しかしそれらは一面で、ともすれば「眼差し」という局面でのみ部落問題をとらえがちであったり、「近代」に創出された都市一般との共通性を見ようとする傾向を強く持っており、「眼差し」に還元しきれない要因や農村部の問題は視野から抜け落ちる。それらはたしかにこれまでの部落問題研究にはなかった新たな視点を提供し、また部落問題の特殊性ではなく近代「国民国家」が普遍的に孕む矛盾の局面を浮かび上がらせたが、その一方で、「統合」の側面のみが強調される傾向をまぬがれておらず、したがって部落問題の固有性を見定めつつ、解放への道筋を切り開くという点での問題をもっているのではなかろうか。