民俗芸能を伝承するということ
―和歌山県有田郡湯浅町北栄地区の春駒を事例として―
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本稿は、和歌山県有田郡湯浅町北栄地区に伝承されている春駒を事例として、被差別部落の民俗芸能が今日まで伝承されていることの意味を、その担い手にとっての存在意義を重視する民俗誌的研究の立場から、超歴史性を背景とした理解ではなく、民俗は変化していくという前提のもとで再検討したものである。
その結果、北栄地区の春駒は一時の中断を経て復活するのであるが、表面上の踊りは途絶える以前のものを踏襲している反面、それを支える人びとの論理に注目すると、復活後は以前のような生業の一つとしてではなく、先人の苦労を追体験する部落解放運動の一環として新たな存在意義を獲得し伝承されていることが明らかとなった。
そして、今後はこのような社会的背景のあり方にも注意しつつ、それを支える人びとの論理をもとに、変化するという視点からの分析が求められ、とくに被差別部落の民俗誌的研究では、部落解放運動の展開との関連にも注意する必要があるとともにこのような作業の積み重ねによる新たな被差別部落の民俗像の提示と、それにもとづく研究課題を考えていくべきではないかという点を指摘した。