戦前期「不良住宅地区」の変容過程(上)
―不良住宅地区・被差別部落・在日朝鮮人―
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本論文(上)では、「都市下層社会」研究において、とくに一九二〇年代以降スラム住民、被差別部落民・在日朝鮮人が生活空間や労働市場で複合的に重なり合って「都市下層社会」を形成していることが明らかになっているという到達点を整理した。しかし、近年の研究が先行研究と無関係に個別実証に埋没している現状を批判し、それぞれの地域の都市社会政策における地域認識や政策意図を明らかにすることやとくに朝鮮人の流入による変化をとらえることの重要性を指摘した。
その上でまず、京都市における都市社会行政の認識を代表する社会調査史料をもとにそれぞれの地域をどのようにとらえていたかを検討した。その結果、一九二九年の不良住宅地区調査では、被差別部落と朝鮮人集住地区がほぼ同一のものととらえられてきたが実態ではそうではなく、認識と実態に大きなズレがあったこと。その後の一九三七年の朝鮮人調査や一九四〇年の不良住宅地区調査においては、ほとんど調査対象地域が重なり合わず、朝鮮人問題と部落問題が個別の政策課題として分化していったことが分かった。
次に朝鮮人集住地区の分布と形成過程に触れ、「不良住宅地区」指定を受け、被差別部落であり、在日朝鮮人の主要な集住地区の一つである楽只地区の朝鮮人流入が激化しはじめた一九二九年の人口構成、職業構造などを分析した。