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部落解放研究 137号掲載
小椋孝士

美作改宗一件(上)
―新史料による穢寺制および幕府宗教政策の再検討―

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 一七八二年、幕府は「被差別部落民衆のみを檀家とする真言宗寺院は、寺院・檀家ともに、一向宗へ改宗せよ」と判決した。いわゆる「美作改宗一件」として知られる事件の判決である。この判決の評価をめぐって、幕府判決を「強制改宗」とみて、被差別部落民衆へ「改宗を強制する」ものとみなす見解と、美作という一地方に起こった局所的な現象にすぎないとする見解に、大きく二分されたまま、現在に至っている。

 今回、筆者の試みる検証は、先行する研究のいずれもが言及していない、未公開の史料『備中国諸記』に注目し、文化八年、つまり、幕府判決から三〇年が経過して、なお判決を執行できていない事実を確認することである。しかも、判決を執行できていない地域が、幕府の直轄地や幕閣要人の膝元であることを、あわせて確認することができる。被差別部落民衆による「改宗命令」拒否の戦いは、渋染一揆のスケールを時間的にも、空間的にもはるかにしのぐ、組織的な闘争であったこと、さらに、幕府がその抵抗なり闘争に対して有効な対策をうてていないことを確認することである。