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部落解放研究 143号掲載
内田 龍史

戦後部落住民意識調査に見る「部落民」としてのアイデンティティ状況(下)

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 本論文は、戦後から現在に至る部落住民意識調査から読みとることのできる「部落民」としてのアイデンティティ状況を時系列にそって跡づけていく試みであった。

 前回論文(中)では、第5期の全国レベルでの総括的調査までのレビューを行ったが、本論文(下)では同時期に行われるようになった同和地区の若者を対象とした調査の検討を行った。

 結果、同和対策事業の推進を前提とする従来の部落住民意識調査の枠組みによって、アプリオリな「部落民」アイデンティティ仮説がパターン化され、結果的に「闘う部落民」としてのアイデンティティを測定してきたことを明らかにした。

 しかし、ここ数年来、従来の画一的な調査から漏れ落ちる部落問題を把握しようと、部落に居住する青年を対象とした意識調査など、新たな対象・調査枠組み・分析方法で部落住民の意識をとらえようとする仮説索出型の調査が行われるようになりつつある。

 今後の調査では、「差別を感じる―感じない」「運動に参加する―しない」といったこれまでの「部落民」アイデンティティの弁別基準に加え、血統観念、地縁・血縁関係への愛着や文化的志向など、多様な指標で考慮する必要があり、研究の枠組みとしてエスニック・アイデンティティ研究からの知見を生かすべきであるとの提言を行った。