本稿は水平運動を研究する際の視角と方法について考察し、運動の軌跡を今日の歴史研究の潮流のなかに位置付ける試みである。筆者が水平運動を捉える基本的な関心は、近代国民社会のあらたな支配秩序にたいし、被差別部落民による異議申し立てがいかにしてなされたのかにある。
本稿の内容はつぎの二点にまとめることができる。まず一点目に、差別糺弾闘争に代表される水平社の活動を、「部落民とは何か」という社会的定義を産出するとともに、その承認を求めるための実践として把握すること。そして二点目に水平運動を担った部落民衆の主体性の捉え方を転換し、人びとの行動を運動のなかで形成される集合的な世界観や心性のもとに分析することの提唱である。