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部落解放研究 147号掲載
大正期キリスト者の部落問題認識

田中 和男

 水平社の設立の背後には何かしらキリスト教の影がある。実際のキリスト者が部落問題をどのように認識していたのか。社会事業家としても著名な留岡幸助は内務省の部落改善事業に協力し、水平運動の精神的運動としての役割に期待した。こうした期待は中田重治、小崎弘通にも共通する。

『破戒』の島崎藤村や、『貧民心理の研究』の賀川豊彦も、一方は虚構の、他方は事実報告の対象として被差別部落民にスポットをあてている。彼らはそれぞれの観点から、差別を受ける部落民が、差別の一因とされた集団的な「遅れ」や「野蛮」を自覚的に克服することを求めている。

それは、キリスト教がもつ平等思想や世に光をもたらす「文明化の使命」によって正当化されるだけではなく、藤村や賀川自らが、出自にかかわる家意識を克服して、自己を形成し、社会で承認を受けたいという救済意識によっても切実に求められていたのであった。