本稿では、「障害の個人モデル、社会モデル」および「障害者役割」という概念を用いて、障害者問題を扱う人権啓発を再考する。現行の啓発では障害者個人の努力や周囲の支援に焦点がおかれ(=個人モデル)、差別を生み出す社会のあり方を問うて変革を求める(=社会モデル)視点が弱かった。
また啓発では「けなげ、前向き」といった「障害者役割」に適合的な障害者像が描かれ、予定調和的に進むため、参加者が葛藤しつつ自らの障害者観を問うような契機となりにくい。
さらに、そうした健常者に都合のいい障害者像が描かれること自体が障害当事者を無力化し、現実の人権侵害を隠蔽しているとも言える。差別撤廃に有効な人権啓発を考えるならば、障害学の視座から学び、啓発担当者自身の障害者観・社会観を問い直すとともに、啓発の枠組みそのものをも捉え直す必要があろう。