編集後記
昨年度・今年度の八月の歴史特集は「部落の生業」でテーマを組んだ。解明されるべきことがまだまだあるとはいえ、昨年度の近世編と今年度の近代編で今特集としては一応の完結となる。昨年度は、東西の事例が取り上げられたが、今年度は、全国的な状況をテーマとする駒井論文を別にすれば、いずれも近畿圏の事例である。
特集の井岡論文は、直接的に部落の生業のありようを描き出すのではなく、これまであまり注目されることのなかった産業組合の活動状況を通して、一九〇〇年前後から部落改善運動が進んだ奈良の部落における生業や改善運動の一面を明らかにしており、今後、履物や皮革の同業組合に関する研究の進展が期待されている。本郷論文は、近代の食肉産業のもう一つの側面を、神戸の新川地区を舞台に、屠畜場における作業の流れ、人々の暮らしの実際と、周辺社会から受ける偏見に満ちたまなざしを通じて描き出している。駒井論文は、部落の主要な生業である履物業のうちでも草履の、一九二四年当時における全国各地の取引状況を通じて、部落の生業としての草履表の生産が、農家の副業にとって代わられようとするようすを捉えている。
その他、今年二月に急逝された池田寛さんの「シカゴ教育改革の理念と学校再建への取り組み」(一五五号掲載)を受けて、その具体的取り組みについて紹介する柏木論文、大阪府教育委員会が二〇〇二年度に府内のほぼすべての識字・日本語教室を対象に行った聞き取り調査に関する福島レポートを掲載した。(K)