近代日本におけるハンセン病者の九〇年にもわたる隔離は、なぜおこなわれたのか。国家による隔離政策が存在したのは事実であるが、それだけを答えにしてよいだろうか。
癩者への差別は、中世の非人研究のなかでも触れられ、また近世についても論文は発表されているが、体系的に論じられたものは存在しない。癩者への忌避観は古代にも存在し、中世にはさらに厳しいものとなっていく。近世になると癩者を被差別の身分として把握する地域もあった。
癩者の存在形態を時代を追って明らかにすることは、癩者の歴史と近代におけるハンセン病者の隔離政策をつなぐ意味を持つ。本稿では、まず古代・中世の史料にみる癩者の実態を述べていきたい。
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