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2007年7月17日 毎日新聞 大阪 イギリス人の記者の見たヒロシマ 「二重差別」に比較の決意
朝鮮半島の出身者として差別され、被爆の翌日に広島に降り立ったため被爆者としても差別される女性・李実根さん。
12歳で被爆した松原美代子さんは、全身のやけどやケロイドで差別され、被爆者であるために仕事にも就けなかった女性。
この2人の女性の聞きとりを核保有国・イギリスの24歳の記者ロジャー・ハッチングスが小稿にしています。「二重差別」という文字が大きく重く浮かびあがっています。
差別とは、言うまでもないことですが単なる不利益のみを指すものではありません。その構成員(被差別者)に層としてのしかかり、結果として表れ(実態)、仕組みや施策から排除され(制度)、且つ、時間的経過がより輻輳した問題、課題を孕んだもの(累積)として、とりわけ個人に現れてきます。長い期間を経た結果を一時点でとらえたものが実態ですが、制度として不利益を被っていることがらや、累積された状況を、今の事実として「実態」が伝えていることになります。こうした差別を二つの側面から被っている場合が「二重差別」と呼ばれるものです。
被爆者の場合には、就職や結婚において差別という大きな壁が立ちはだかり続けました。また、家族や子どもに対しても、自らが被爆者であることを隠し続けた体験をもつ人も多く存在し、その一部分は活字としても出版されています。また、被爆2世にも就職や結婚の壁が存在していることが、しばしば明らかされてもいます。
李さんは朝鮮半島出身という在日外国人差別のうえに、被爆地に行ったということで差別しつづけられました。松原さんは、仕事も見つからず、結婚もできずに米国に旅立ち、原爆投下国であるアメリカの人々に治療や手術も助けられます。
そして今、李さんは「忘れられた被爆者の救援を」をスローガンとした広島県朝鮮人被爆者協議会の会長として活躍しています。
一方の松原さんは、核実験反対を訴え、全米各地を巡回し取り組みを進めた先駆者です。そして、この取り組みとニューヨークでの手術成功が、憎みつづけた米国に対して、たくさんの助けてくれた米国人への感謝の気持ちを持つに至ることを伝えています。
英国人ハッチング記者は、4年前にはじめて広島を訪ね、今回は李さんと松原さんのインタビューをおこなっています。4年前までの彼が、戦争犠牲者者は日本だけではないと思い、英国は欧州でも最大級の被害国だととらえていた自らと、その後の彼が、核兵器の「非道」と、「被爆の末の二重差別」の実態を知り、英国人として核兵器廃絶の強い思いとの対比構造は印象的です。
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