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2008.03.04

新聞で読む人権
2008年02

貧困の連鎖を如何に断ち切るか

  • 2008年1月9日 読売新聞 大阪 「貧困 足もとで 負の連鎖立つ進学支援」

 冒頭に記事をそのまま引用すると、『朝、震えている3歳児がいます。朝食抜きで体が冷えたまま。夕食を食べてないこともあるようです。』

 『自宅近くで自転車で転倒したのに「学校でけがをした」と保健室にやって来た男児がいた。翌日、泣きながら「うそやった。お母さんに、そう言えと言われたんや」と告白した。』

 ひとつ目の引用は、大阪府下のある市立保育園の保育士のことば、20歳代の両親は無職で生活保護を受給していますが、その保護費を父親がパチンコで使ってしまうらしい。

 ふたつ目の引用は、大阪市内の小学校の養護教諭の話、学校事故なら医療費の自己負担がないために、子どもにウソを言わせたらしい。

 よく生活に困窮すると、まず食費の抑制がはじまる、と言われます。困窮度が増すにつれ、抑制は食事を抜くというところまでエスカレートしていきます。

 子どもを抱えた家庭の場合には、子ども達もその抑制の道連れにならざるをえません。食費を抑え、医療費を抑え、更に文房具や教材なども含む教育費の抑制へと連なってゆきます。学べる状況に至っていない子ども達の姿が、そこにはあります。

 複数の教育現場にいる知人から、長期休み明けに痩せ細った子どもの姿を見るようになったと聞きます。学校給食が栄養の拠り所になっていることが想像できます。

 2006年に堺市の健康福祉局が実施した生活保護受給者のサンプル調査「貧困の連鎖と固定化に関する研究」では、受給世帯主の育った家庭の25%が生活保護の受給経験があり、最終学歴は72%が中卒か高校中退であったと、報告されています。貧困が連鎖していることと、ある特定の層に固定化しつつあることを明らかとした重要な調査だと思われます。

 貧困の連鎖は負の連鎖であり、輻輳し断ち切る箇所は容易に発見可能なものではありません。

 冒頭に記述した家庭では、定職もないのに、パチンコに金を費やし、発育期の子どもに食事すら与えていません。それだけを記述すれば、悪の権化はパチンコばかりしている父親のみの問題とも見えがちです。しかし、貧困の連鎖は、そんな表層的で簡単な仕組みとはいえません。

 定職もないのにパチンコばかりしている姿には、雇用形態や労働環境の多様化のなかで進行する低賃金の実態や失業が増大しているその一方に、働く意欲や労働能力の低さなどと表裏一体の対の関係でもあります。

 更に、低学歴やドロップアウトにより、必要な資格や技術を得ることもできず労働市場への応募のチャンスすら逃している関係もあります。

 病院へも行けない生活の厳しさの対には、往々にして、携帯電話料金の高額支払いなどの出費と抱き合わせが見受けられます。

 貧困の連鎖はきわめて絡み合い、負のスパイラルを繋げてゆきます。

 そうした困難な問題の解決に向けて動きだした行政の取組みが紹介されています。

 東京都足立区では、生活保護世帯の中学3年生に年3回、進路希望調査を実施し、ケースワーカーが家庭訪問により進学を勧めています。2005年度からスタートしたこの取り組みにより、翌年度は、保護世帯の高校進学率が4.63ポイント上昇しました。保護世帯の中学生全員の高校進学をめざし、貧困が世代をわたることに歯止めをかけたいと担当者は語っています。

 京都市北福祉事務所は、2006年9月から、同じく保護世帯の中学3年生に対し、ボランティアの大学生とともに、無料の学習会を開催しています。授業中についていけずに寝ていた中学生が高校に進み、大学をめざしている姿もあるそうです。

 貧困の連鎖を断ち切る1つの取り組みとしてある教育分野から切り込み、進学により歯止めをかける試み。絡み合った糸を解きほぐすような地道な活動が、子ども達への貧困の伝播を遮断するための挑戦と言える取り組みです。