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2008.05.14

新聞で読む人権
2008年02

職業と世系に基づく差別を受けている女性たちが、複合差別の実態と取り組みの状況を報告しました。

  • 2007年12月21日 毎日新聞 大阪 Watch! 世界のマイノリティと連携を 日本、インド、セネガル 女性差別の実態を報告 大阪市内で集会と呼びかけ



 世界人権宣言大阪連絡会議は、毎年12月10日の人権デーに、世界人権宣言の採択を記念して、国際的な視野から様々な人権問題をテーマとして記念集会を開催しています。昨年の記念集会では、この間国際連合人権小委員会で一つの研究テーマとなっていた「職業と世系に基づく差別」を取り上げ、日本、インド、セネガルにおいてこのような差別に苦しんでいる女性達の視点から、今日的な差別の現状と、それに対する各地の取り組みについてご報告を受けました。

 集会ではまず、国連人権小委員会の委員として、「職業と世系に基づく差別」に関する特別報告者を務められました横田洋三先生から、国連での取り組みについてご報告いただきました。この問題がどのような経緯で人権小委員会で取上げられ、他の機関との権限の競合をどのように回避したかという点に触れられた後に、この調査研究の成果として取りまとめた最終報告書、とりわけ職業と世系に基づく差別を撤廃するための原則と指針案の概要について紹介していただきました。職業と世系に基づく差別が甚だしい人権侵害であり、その中で子どもや女性、障害のある人びとは二重三重の複合差別を受けている実態が明らかにされ、この差別を撤廃するために、各種立法・行政上の措置を行い、教育啓発を進めるべきことが示されました。

 その後、各国の現状を報告していただきました。

 ブルナド・ファティマさん(タミルナドゥ女性フォーラム代表:インド)は、ダリット女性が従属的な立場に置かれ、性暴力や殺害の危険性に直面していること、全般的に、教育の権利や財産の権利を奪われており、社会的な地位を得る道も閉ざされてきた実態を報告されました。とりわけ、性的な搾取の具体例として、寺院に女児をささげる「マタマ」という慣行を紹介されました。財産をもつことや結婚をすることも認められず、生涯公共の所有物として性的搾取を受けることを強いられているとのことです。その他、経済のグローバル化に伴う被害として、花栽培で用いられる殺虫剤により、健康被害を受けていたり、エビ養殖の拡大によって仕事を奪われていたりするそうです。このような現状に対して、ダリット女性の意識化と組織化を進め、識字活動やリーダーシップ研修、子どもたちのためのデイケアセンターを設置するなど、精力的な取り組みを進めているとのことです。

 日本の部落女性の実態に関しては、塩谷幸子さん(部落解放同盟大阪府連合会副委員長:日本)が報告されました。特に保育所建設について、当たり前に人間らしい生活がしたいという思いで闘ってきたことを紹介されました。当時、親が家にいても家内労働に従事している場合が多く、多くの子どもたちが保育にかける状況にあり、その改善のために、権利としての「保育の社会科」を部落解放運動の中で取り組んできたこと、保育所建設が実現した後も、保育時間の延長や病児保育の保障を求めてきたとのことです。

 その他にも、識字運動や最低工賃制や最低賃金制度の学習、生活保護費の男女差別撤廃の取り組みを進めてきたこと、現在妊産婦へのヘルパー派遣や国民健康保険での分娩費支給、職域拡大・職域改善に取り組んでいることが紹介されました。

 現在、運動体内での女性解放や部落女性への複合差別を克服することが課題として提起され、そのためにも、マイノリティ女性と連帯して、政府による実態調査実施の要請、条例制定・審議会へのマイノリティ女性の送り出しなどを通じて、女性差別・部落差別の撤廃に取り組んでいきたいとの決意が示されました。

 最後に、セネガルのカーストとジェンダーについて、ペンダ・ムボウさん(ダカール大学イスラム史教授:セネガル)から報告されました。西アフリカ全域に「カースト」という社会制度があり、鍛冶屋に代表される金属加工や木材加工業、言葉を操ることで生業を立てている人などがカーストに属しているとのことです。カーストは権力から排除され、浄・不浄の考え方や内婚制、技術を持っていることなどが特徴だそうです。

 カースト内の女性は、カースト外の男性と結婚する場合、離婚や夫婦の社会的孤立など、様々な困難に遭遇すること、子ども達も父親からその姓を名乗ることを拒否され、母親の家族名を名乗り、「足が一本しかない」とさげすまれ、差別されるとの事です。高い教育を受けたカースト女性は一夫多妻制のもとで相手が見つからず、結婚できないとのことです。また、高い教育を受けていない女性は様々な搾取を受けており、カースト外の人達の言いなりになってお金を稼がなければならないという実態に置かれているとのことです。

 このような現状に対して、カースト制度という偏見や恣意的な判断、厳格な教義に対抗するために、新しい考え方を取り入れ、社会を変えていくことが必要だと訴えられました。

それぞれのスピーカーのご報告の詳細については、当研究所HP講座・講演録「職業と世系に基づく差別の撤廃 女性の視点より」をご覧下さい。