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2008.5.06 読売新聞 大阪 児童養護施設内虐待 行きすぎ指導 表面化 しかる際にたたく/「出て行け」と暴言
1994年に日本も批准した「子どもの権利条約」の大きな影響もあり、児童養護施設(全国に約560ヶ所、約3万人の子どもが入所)にいる子ども達の人権問題もようやくクローズアップされだし、「子どもの権利のノート」が子ども達に配布されるということも始まりだしました。すなわち、子どもの権利条約第20条で「1.一時的若しくは恒久的にその家庭環境を奪われた児童又は児童自身の最善の利益にかんがみその家庭環境にとどまることが認められない児童は、国が与える特別の保護及び援助を受ける権利を有する」と明確に謳われているのです。しかし現実には、大阪市内の施設内での職員による虐待事件等が新聞報道されたように、改善されていない面が多分にあります。
それ自体、本来、子どもを保護し権利を守るべき施設である児童養護施設において、許されないことであり、子どもの権利条約にも違反する人権侵害行為であることは明白です。にもかかわらず、なぜ改善があまり進まないのかを考えてみる必要があります。
なぜなら、職員個人(施設)の倫理観の問題だけにとどまらない、大きな社会的背景があるからです。例えば、その際たる1つは、厚生労働省の施設職員に対する配置基準の問題があります。1976年以来、子ども6人に対し職員1人という配置基準です。このため、職員は子ども達に余裕を持って対応することが難しくなりがちな状況に追いやられやすいです(参照:全国児童養護施設協議会制度検討特別委員会小委員会『子どもを未来とするために 児童養護施設の近未来』2003年)。
2つには、新たな入所児童の約6割は虐待を理由として措置されているように、より困難を抱えた子どもが増大している傾向があります。それでなくても、職員数が不足気味な中で対応しなければいけない状況が強まっています。結果として、施設職員の離職率の高さ、平均年齢の若さといった実態があります。
3つには、施設の孤立性・閉鎖性です。施設のほとんどは福祉法人が経営していますが、管轄している都道府県/児童相談所は実質、福祉法人任せの傾向があります。施設や地域住民に近い距離にある市町村は施設に対し何の権限も関与もありません。さらに、施設の子ども達が通う幼稚園・小中学校も、人権教育の一環として施設の子どもに正面から向き合った取り組み(例えば定期的な施設訪問・交流、福祉施設の1つとしての系統的な施設学習、学力保障や進路保障の取組みなど)をあまりしていません。市町村教育委員会も福祉の問題といった受止めで、関心が弱い実情です。こうした中で、施設はややもすると地域社会の中で孤立的・閉鎖的になりがちとなり、施設内のさまざまな課題も施設職員や福祉法人の都合で処理されてしまいやすいのです。
こうした社会的背景もしっかり踏まえながら、施設内の職員による虐待等の課題を考えていく必要があります。
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