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2008.09.05

新聞で読む人権
2008年6月

婚外子の日本国籍取得請求を認めた最高裁判決

  • 2008.6.5産経新聞 婚外子国籍訴訟 時代の流れくんだ判決だ


1、何が問題となったのか=国籍法3条1項による国籍取得の区分の違憲法

 国籍法3条1項の規定は、日本国民である父の非嫡出子について、父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した者に限り日本国籍の取得を認めています。しかし、同じ日本国民である父から認知された子でありながら父母が法律上の婚姻をしていない非嫡出子は、その他の要件を満たしていても日本国籍を取得することができないとされてきました。このことが、憲法14条1項違反ではないかが争われた裁判でした。

2、最高裁判決の論理構成と結論

 6月4日、最高裁は、東京高裁の憲法判断を避けた上での原告敗訴の決定を退け、原告の主張をほぼ全面的に認める決定を行いました。大法廷で法律が違憲とされたのは、戦後8件目です。

 最高裁は以下の2つの根拠から違憲と判断しました。

 第1に、内外における社会的環境の変化です。1つは、今日では、出生数に占める非嫡出子の割合が増加し、家族生活や親子関係も多様化し、さらに国際化の進展に伴い国際的交流が増大することにより、日本国民である父と日本国民でない母との間に出生する子が増大し、その子と日本との結び付きの強弱を両親が法律上の婚姻をしているかどうかで判断できないとしています。もう1つは、諸外国で、非嫡出子に対する法的な差別的取扱いを解消する方向にあること、さらに日本が批准した「市民的及び政治的権利に関する国際規約」や「子どもの権利条約」にも、児童が出生によっていかなる差別も受けないとする趣旨の規定があることを指摘しています。

 第2に、「日本国民である父から出生後に認知された非嫡出子」のみが、日本国籍の取得について著しい差別的取扱いを受けていると指摘しています。即ち、1つは、国籍法は父母両系血統主義を採用し、出生の時に父又は母のいずれかが日本国民であるときは子が日本国籍を取得するとしています(2条1号)。したがって、「日本国民である父又は母の嫡出子として出生した子」、「日本国民である父から胎児認知された非嫡出子」、「日本国民である母の非嫡出子」は、生来的に日本国籍を取得できます。

 しかし上記の3条1項の規定により、「同じく日本国民を血統上の親として出生し、法律上の親子関係を生じた子であるにもかかわらず」「日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子」のみが、生来的にも手続き的にも日本国籍を取得できないのです。もう1つは、父母両系血統主義を採用する国籍法の下で、「日本国民である母の非嫡出子」が出生により日本国籍を取得するにもかかわらず、「日本国民である父から出生後に認知されたにととまる非嫡出子」が届出による日本国籍の取得すら認められないことには、両性の平等という観点から見てもおかしいとしています。

3、評 価

 第1に、内外の社会的環境の変化を基本理由に、日本国民である父の非嫡出子に対する国籍法3条1項の差別的取扱いを認め憲法違反としたこと、第2に、父母の婚姻に基づく嫡出子であることを除いた3条1項の要件(=父の認知)が満たされていれば、届出により日本国籍を取得できるとし、直接救済したこと、の2点で高く評価される判決です。

 第2に、非嫡出子に対する法的な差別的取扱いの解消に対する肯定的判断が伺われ、長年の課題である民法上の非嫡出子に対する相続権への差別などの解消にとっても意義ある判決内容です。

 第3に、ただし国籍法が改正された1984年時点で既に憲法違反の要素があり、「社会的環境の変化」を待たずとも判断されるべきではないか、2)日本国籍の取得という枠組みにおける平等実現であり、在日外国人による戦後保障の一連の判決や外国人の退去強制差止め訴訟や難民認定訴訟での判決と比較すれば、客観的には日本国籍取得という同化を促進する分野での基準緩和といった危惧も抱かざるを得ない側面があります。