- 2008年8月11日 読売新聞 夕刊 鳥取県教委 学力テスト結果 非開示 「序列化」反発受け転換
2007年4月に43数年ぶりに実施された全国学力・学習状況調査(以下、全国学力調査)。その市町村別、学校別結果を開示するかどうかをめぐって、鳥取県は大きく揺れていましたが、8月11日、臨時教育委員会で2007・2008年度は「非開示」と決めました。ことの発端は2007年10月に地方紙記者が県教委に開示請求しましたが、「非開示」と決定。これに対し異議申し立てをし、県情報公開審議会が2008年7月に「非開示決定の取り消し」を答申。県教委も「答申を尊重」する考えを示していましたが、市町村教育委員会をはじめ学校やPTAが強く反発し、異例の多数決で「非開示」の決定となったのです。
そこで争われた根本的なことは、1.開示すれば、教育関係者に刺激が生まれ切磋琢磨が生まれ学力向上につながるのかどうか、2.開示すれば、学校間に過度の競争や序列化を生み出し弊害が大きいのかどうか、3.全国学力調査を自治体や学校でいかに活用できるのかどうか、の3点でした。
教育の世界に競争原理を持ち込み活性化させようとする「新自由主義」(市場原理主義)の立場からは、1.を強調し、2.を否定・軽視し、3.は1.のために活用すべきと主張しています。それに危惧を抱く立場からは、2.を強調しています。
1.2.については、それをいち早く導入したイギリスでも多くの弊害が生まれ、見直されようとしています。すなわち、学力の背景にある家庭(校区)の社会的階層問題を抜きに、学力調査結果をいくら分析しても、多くの成果を得ることはできないからです。その点で今回の日本の全国学力調査は致命的な欠陥を持っています。「学校調査での就学援助率」以外は、家庭の社会的階層を把握する調査項目が全くないからです。そのため、3.についても、ほとんど掘り下げた分析ができず、活用しにくい現状があるのです。
OECD(経済開発協力機構)が3年おきに実施している「PISA調査」(15歳対象)では、親の職業・雇用形態・学歴・使用言語・家庭の所有物など、階層とかかわる調査項目があり、学力に与える影響の大きな要因を把握しようとしています。また欧米では、マイノリティなど社会的階層としては不利な立場にある家庭が多い現状にもかかわらず、学校内の子ども間の格差も小さく、かつ学校の平均水準も一定のレベルを維持している学校=「効果のある学校」の特徴や実践を分析したり、そうした学校へ積極的な行政支援を行う施策が取られています。
実は3.が曖昧なために調査設計も弱く、学力向上を考える上で上記のような根本的なことの議論が極めて弱いのです。本当に豊かな学力向上につながる、分析や施策が可能となるような調査の枠組みが一日も早く求められます。
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