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2009.03.12

新聞で読む人権
2009年3月

大阪大学では、イラク戦争を契機として、平和を考える講義が開催されています。

 2003年、アメリカのブッシュ政権は、大量破壊兵器の開発や「テロリスト支援」を理由として、イラク戦争に突入しました。21世紀に入ってもなお、世界のいたるところで戦火が途絶えることはありません。このような状況に対し、大阪大学の教員有志が、2003年5月、「平和のための集中講義」を実施しました。2004年からは、全学共通教育科目として、「平和の探求」を開講しています(現在は国際教養科目に位置づけられています)。この講義内容をまとめたものが、2008年3月に発刊された、「平和の探求」です。

 いったん戦争が起これば、私たちの生命や身体、平穏な生活が脅かされるわけですが、このような状況は、単に戦争によってのみもたらされるのではありません。「日常の仕組みによって作り出される構造的暴力」や、「日常文化の中に潜む文化的暴力」によっても、私たちの生活は脅かされます。本書は、これらの一切の暴力が廃絶されてこそ、真の平和がもたらされるとして、「積極的平和」という幅広い平和の概念を提示しています。これに基づき、本書では、戦争や国家・民族対立の問題はもちろんのこと、現代社会に潜む暴力の問題にも論及しています。また、一旦戦争が起これば、兵士として人々が動員されるのはもちろんのこと、経済活動や学術、文化活動にいたるまで、あらゆるものが戦争へかりだされるでしょう。だからこそ、平和の探求は、様々な分野で、多様なアプローチでなされなければなりません。そのため本書は、法学や国際関係論にとどまらず、経済学、心理学、生物学、医学、物理学、教育学、社会福祉など、自然、人文、社会科学のさまざまな分野から、平和の問題にアプローチしています。

とりわけ、第5部の「平和への途」は、相互理解や他者受容、紛争転換など、意見の相違や利益の衝突(これらを総称して紛争と呼んでいます。紛争は暴力が用いられる武力紛争をさすものではありません)を乗り越えていく道筋を示しています。紛争の解決が暗礁に乗り上げた局面においても、武力を行使しないでもすむ解決の方法があるということは、何よりもまして重要であるといえるでしょう。

もちろん、オールマイティに紛争を解決できる方法はありません。パレスチナ問題など、長期にわたって解決を見ていない難問も山積しています。だからこそ、平和を探求し続けることが、きわめて重要です。本書は、その一つのきっかけを提供してくれています。