1.はじめに
今回の調査では、環境報告書を含む企業の社会的責任に関する報告書のほかに、金融機関(とりわけ銀行)が発行するディスクロージャー誌もあわせて収集・分析した[1]。その結果、521誌を収集した。そのうち、企業報告書を複数発行する企業(例えば、環境報告書と社会性報告書とを別途発行するものや、ディスクロージャー誌とは別途CSR報告書を発行するもの)が8社存在する。そのため、報告書を収集できた企業は、513社である。
これらの報告書について、第2章において紹介した調査項目に基づいて、人権に関連する取り組みの記述を抽出した。
本章では、かかる記述の状況について、全般的な傾向と、個別課題に分けて、数的な傾向を分析し、それぞれの項目について、先進的な記述事例を紹介することとする。なお、ここで検討するデータの基礎を成すチェックシート(記載状況一覧)は、当研究所ホームページ上で紹介することとし、本報告書では割愛する。
2.全般的な傾向
<1>主たる業種
表1は、今回収集できた報告書を発行する企業の業種分布を示したものである。
表1 主たる業種
1
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農業
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11
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金融・保険業
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2
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林業
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12
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不動産業
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3
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漁業
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13
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飲食店・宿泊業
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4
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鉱業
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14
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医療・福祉
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5
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建設業
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15
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教育・学習支援業
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6
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製造業
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16
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複合サービス業
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7
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電気・ガス・熱供給・水道業
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17
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サービス業
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8
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情報通信業
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18
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公務
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9
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運輸業
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19
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分類不能の産業
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10
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卸売・小売業
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計
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これらの企業のうち、東証一部上場企業は、391社であった。ディスクロージャー誌の作成が義務づけられている金融・保険業は別として、製造業者の数が突出している。なお、製造業の内訳は、次のとおりである。
表2 製造業内訳
1
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食料品
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10
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非鉄金属
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2
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繊維製品
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11
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金属製品
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3
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パルプ・紙
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12
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機械
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4
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化学
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13
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電気機器
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5
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医薬品
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14
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輸送用機器
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6
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ゴム製品
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15
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精密機器
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7
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石油・石炭製品
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16
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その他製品
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8
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ガラス・土石製品
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計
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9
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鉄鋼
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<2>報告書の名称
前述したように、CSRに関わる報告書は、当初環境問題への取り組みの報告実践から発展してきたものである。このことは、報告書のタイトルに現れる。すなわち、社会性に着いても言及する報告書は、タイトルにも「CSR」や「社会」といった文言を付しているからである。そこで、報告書の名称について分類した。
表3 報告書の名称
1
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「CSR」「企業の社会的責任」
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77
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2
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「環境」及び「社会」
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128
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3
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「環境」のみ
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132
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4
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サスティナビリティ(持続可能性)
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18
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5
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レスポンシブル・ケア
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10
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5
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ディスクロージャー
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141
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7
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その他
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15
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※複数種の報告書作成企業
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8
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計
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521
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金融機関のディスクロージャー誌を除いて、環境報告書をタイトルとするものが132誌と最も多い。しかしながら他方で、環境と社会を併記するものが128誌、CSRを直接明記するものが77誌であった。また、環境を中心としながらも、社会性を含めた概念である「持続可能性」を用いるものも18誌あり、環境問題に止まらない記述内容を示唆するタイトルを用いる報告書が、数的には拮抗している状況である。このことから、各企業においては、環境のみならず、社会性も含めて報告することが重要だとする考え方が広がりつつあることがうかがえる。
ただし、タイトルは「環境報告書」としながらも、トップステイトメントで人権に言及するもの(3誌)、企業方針や行動綱領で人権の尊重を明記するもの(47誌)、人権に関する記事を記載するもの(30誌)もある。このことから、タイトルを「環境社会報告書」や「CSR報告書」に移行させる企業が増えていくものと期待できる。また、その他の名称として、「社会の公器性報告書」(オムロン)など、ユニークなタイトルを用いて、CSRに関する独自のポリシーを表現するものもあり、興味深い。
[1] これらの冊子は、本来、業法上定めのある説明書であり(例えば、銀行法21条など)、環境や社会性について焦点を当てるCSR報告書とはやや性質を異にしている。
しかし、経営の健全性を公にするという性質は、CSR報告書にも通じるものがあり、また、トピックス的な記事には、他業種においてCSR報告書に記載されている内容と共通するものが含まれている(コンプライアンス・社会貢献活動など)。さらには、GRIのガイドラインを参考にして記述している例もある(八十二銀行)。金融機関の中には、別途CSR報告書を作成する例もあるが、その余裕がない場合でも、ディスクロージャー誌にCSR活動を紹介するといった方向性があってよいのではないか。