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2007.12.18


生まれてくる子どもに責任はない

小森哲郎(北九州市立大学名誉教授)


 私の知人に、30年以上一緒に生活し、子どもがいるのに、婚姻届を出さず、姓が別の夫婦がいます。いわゆる「事実婚」であるため、子どもは母親の戸籍に入っており、「続柄(つづきがら)」の欄には「女」と記載されています。法的に婚姻関係にある男女から生れた子どもを「嫡出子(ちゃくしゅつし)」、そうでない子どもを「非嫡出子」とか「婚外子」といいます。この母親は、「生まれてから長い間使ってきた氏(姓)を変えるのは、苦痛でさえあった。これまでの生活でなんの不都合もないし、夫も賛成なので、婚姻届など出す気はない」と言っています。

 婚外子には、このような場合だけでなく、結婚する気持ちはないが、子どもは欲しいとか、夫の愛人に子どもができたが、妻が離婚に同意しないためなど、さまざまな場合があります。

 婚外子の比率は2%程度と少ないものの、母の戸籍に入り、父の欄は空白、続柄は「長男・長女」ではなく、「男・女」と記載されます。ただし、15歳以上の子どもは本人が、子どもが15歳未満の場合は親権者である母親が、家庭裁判所に申請すると、戸籍の変更が許可されることもあります。「こともあります」というのは、申請をしたすべてが認められるのではなく、「認められる可能性がある」という意味です。

 日本は、法にしたがって、婚姻届を国に提出することで、はじめて正式な結婚とみなす「法律婚主義」ですので、嫡出子とそうでない子は、戸籍面で区別されてきました。婚外子を生むことは、道徳に反し、秩序を乱す行為とさえ考えられることがありました。遺産相続も、婚外子の法定相続分は、嫡出子の半分です。

 しかし、子どもは自分が生まれてくる家庭・父や母を選べません。生まれてくる子どもには全く責任はないのに、区別されてきたのです。差別といってもさしつかえないと思います。

 すべての子どもに「法の平等を」という声が次第に強まってきました。国連の人権規約委員会や子どもの権利委員会、女性差別撤廃委員会は、婚外子の差別をなくすよう、再三にわたってわが国に勧告しました。日本弁護士会は、「戸籍の続柄表記は違憲」という意見書を提出しました。さらに、2004(平成16)年、東京地方裁判所は「区別記載は戸籍制度の目的の必要限度を超え、プライバシー権の侵害である」との判断を示しました。

 そのため、法務省は、同年11月1日から、戸籍法の施行規則を改正し、申し出があった場合、「長男・長女」というように修正することにしました。しかし、遺産の法定相続分は従来のままです。

 戸籍謄本をみれば、嫡出子か婚外子か、分かります。わが国は、結婚や就職のとき「身元」を重視する傾向が強かったため、かつては戸籍の公開を利用した差別が当然のように行われていました。婚外子であるため、不採用になった人がいました。今では、就職希望の人に戸籍謄・抄本の提出を求めず、入社の際も、その提出を画一的に求めないことになっています。しかし、この指導は十分浸透しておりません。採用選考は、応募者の「能力」と「適性」が、求人職種に適しているかどうかを、唯一の基準とすべきことを、改めて自覚したいものです。

 なお、「住民票」は、1995(平成7)年から、すべて「子」に統一されています。

2006年11月1日