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2008.03.04


深刻化する高齢者問題

小森哲郎(北九州市立大学名誉教授)


 2005(平成17)年のわが国の平均寿命は、インフルエンザの流行などのため、昨年をやや下回り、男性78.53歳、女性85.49歳でした。それでも、わが国は有数の長寿国で、男性は、前年の2位が4位になりましたが、女性の平均寿命は、21年連続世界1です。

 数年前、「ピンピンコロリ」という言葉がかなり流行しました。長野県のある町で生まれた運動で、高齢になっても元気で、いろいろな活動をし、最後は長く床につくことなく安らかにこの世を去る、という意味です。

 高齢者の中には、経済的に安定し、ボランティア活動にかかわったり、趣味を活かした日々を送ったり、若い人に負けずに働いている人がいます。社会の「受益者」であるよりは、「支え手」になるべきだという「新しい高齢者像」の登場は当然といえます。

 しかし、年齢が増すにつれて、心身の機能が低下することは避けられません。認知症や身体に障害をもつ高齢者などを抱える家族の負担が大変なことは、経験のあるすべての人が認めることです。「親孝行したくないのに、親がいる」などといわれたのも無理からぬ気がします。そして、「高齢者虐待」が深刻な問題になってきました。

 2006(平成18)年4月から「高齢者虐待防止法」が施行されています。高齢者への虐待には、養護者(高齢者の世話をしている家族、親族など)と、「養介護施設」または「養介護事業」に従事する人によるものがあります。虐待には、<1>身体的虐待(殴る、ベッドに縛りつけるなど)、<2>介護・世話の放棄・放任(食事や水分を十分与えないなど)、<3>心理的虐待(怒鳴る、恥をかかせるなど)、<4>性的虐待(キス、セックスの強要など)、<5>経済的虐待(金銭を渡さない、年金・預貯金を無断で使うなど)の5つがあげられています。そして、法では、国や地方自治体、保健・医療・福祉関係者の責務などを定めています。

 2003(平成15)年、厚生労働省は高齢者虐待のアンケート調査を実施しました。ケアマネジャーが担当した1991件の結果では、虐待を受けた自覚があると答えた高齢者は45%ですが、虐待した自覚をもっている養護者は25%にすぎません。虐待の内容は、心理的虐待、介護・世話の放棄・放任、身体的虐待の3つがそれぞれ50%を超えており、11%の人は生命にかかわる危険な状態のときがあったと答えています。虐待を受けた人の76%は女性で、そのほとんどが要介護の認定を受けています。虐待をしたのは、子どもとその配偶者が69%を数えます。虐待が起きた原因は、虐待した人・された人の性格、人間関係上の問題が最も多く、介護疲れや経済的負担、高齢者の言動の混乱、身体的自立度の低さなど、きわめて多様です。

 高齢者の虐待防止のためには、虐待の発生予防から生活の安定までの継続的な支援、高齢者の意思の尊重、虐待の早期発見・早期対応、養護者の支援などさまざまな視点が必要なのは当然です。

 日本の三大疾患といわれるガン、心臓病、脳卒中が克服されると、男性の平均寿命は8.49年、女性は7.68年延びるといわれます。そうなると、男性の平均寿命は87歳、女性は93歳になります。したがつて、高齢者の問題は今後より深刻化します。すべての国民の共通の課題として、真剣な討議が広く・深く行われ、現実に即し・役立つ施策を期待するものです。

2006年11月1日