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自立を目指す障害者小森哲郎(北九州市立大学名誉教授) |
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「障害者白書 平成18年版」によれば、身体障害者・児が352万人、知的障害者・児が46万人、精神障害者が258万人います。身体障害者は、視覚・聴覚言語・肢体・内部(内臓)に障害がある人ですが、障害が重複している場合もあります。知的障害者は、日常生活で頭脳を使う行動(例えば、金銭の管理、読み・書き・計算など)が不自由な人です。精神障害者は、ストレスやショックによる病気、統合失調症(かつては精神分裂病といわれていた)、アルコール中毒や薬物依存など、種類や程度、発生の原因などは多様で、医療と福祉の対応が必要です。
最近、障害者への対応、施策が変わりつつあるようです。例えば、宮城県では、知的障害者の入所施設を、2010(平成22)年までに解体することを決めました。大きな施設では「規則重視の集団生活」になりがちで、少人数のグループホームでの生活、ヘルパーの援助を受けての自宅での生活など、「普通の生活」「自分の生活」をする方が、はるかに「人間的」なのは当然のことです。 この「脱施設」とともに大切なのは、障害者が働くことです。かなり前に、両手・両足が不自由で、言葉も明瞭でない青年から、「自分の障害は生まれたときからなので、手足が不自由なのはそれほど悔しいとは思わない。しかし、働いて自分の生活を維持したい。そして、社会に役立ちたい。それができないのが一番残念だ」と教えられたことがあります。コーヒーの味で評判の喫茶店は、従業員24人のうち14人が障害者だそうですが、店長は「知的障害者はむずかしいエスプレッソ(独特の入れ方をするイタリア式のコーヒー)を入れるのにうってつけだ」と言っているそうです。 障害者が働ける職場を開拓し、提供することは、社会のためであり、義務だと私は思います。民間企業は1.8%、国や地方自治体の機関、特殊法人などは2.1%、都道府県などの教育機関は2.0%、障害者を雇用することが義務づけられていますが、民間企業の実雇用率は、2005(平成17)年6月現在1.49%、教育機関はさらに低く、47都道府県の平均は1.33%です。 2006(平成18)年4月から「障害者自立支援法」が施行されています。<1>障害者の自立支援の事業は市町村が行う、<2>すべての種類の障害者に共通の福祉サービスを提供する、<3>地域の限られた社会資源を活用できるように規制を緩和する(例えば、空き教室や空き店舗などの活用)、<4>手続きや基準の透明化、明確化などが大きな狙いのようです。費用は、市町村が90%、利用者(障害者)が10%負担し、都道府県は市町村の支給に要する費用の25%、国は50%を負担することになっています。国が財政負担をする見返りで、10%の利用者負担になったといわれています。 この10%の負担は、障害者の生活にどんな意味をもつのでしょうか。「自立支援法」は、現実は「自立阻害法」だという批判があるようです。障害年金と働いて得る収入が少ないからです。そして、最近の報道で、この批判が必ず的外(まとはず)れでないことを知りました。ただし、自治体によっては、独自に軽減策をとっていたり、検討したりしています。 一方、国際連合の「障害者の権利条約」は、本年(2006年)中には採択されるようです。 障害者の真の自立を目指す施策が期待されます。 |
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2006年11月1日
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