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「女」から「男」になった人小森哲郎(北九州市立大学名誉教授) |
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数年前まで、「性転換手術」があることは知っていましたが、「なぜ女(あるいは男)が男(あるいは女)になりたがるのだろうか。変な人がいるなあ」というような感想しかもっていませんでした。ところが、あるきっかけで、「性同一性障害」について多少の勉強をしました。
ほとんどの人は、男として生まれてきた人は男、女として生まれてきた人は女と思い、違和感はありません。これを「性同一性」といいますが、ごく稀に、男として生まれてきたのに男と思えない、自分は女だと思っている人がいます(もちろん逆の場合もあります)。この気持ちは、1歳半ごろまでに生まれ、生涯変わることがないそうです。 「性同一性障害」は病気・障害ですが、治療の第1段階は、精神療法です。精神科医などの専門家が、体と心の性の不一致のために味わった苦しみ、希望の性別などを確かめます。次段階の治療の資料となりますし、精神的変化もないとはいえません。第2段階は、ホルモン療法で、必要なホルモンの投与により、体と心の性の一致を図ります。第3段階の治療は、「性適合手術」(かつては性転換手術といった)です。わが国で公的にこの手術が認められ、実施されたのは、1998(平成10)年で、それまでは海外で手術を受けていました。 しかし、手術で男が女、女が男になっても、「紙による差別」というべき不都合がありました。日本の公的書類で性別の記載がないのは、運転免許証などごく一部に限られています。健康保険証やパスポートなどには、性別が書かれています。なによりも、戸籍の性別の変更(訂正)は、かつては法的に実質的に不可能に近く、その改正を求める声が高まりました。 このようないきさつを経て、2004(平成15)年に「性同一性障害特例法」が成立し、翌年から施行されています。この法では、2人以上の医師の診断を受けた人で、①20歳以上であること、②現在、結婚していないこと、③現在、子どもがいないこと、④生殖能力がないこと、⑤変更後の性別の性器の部分に近似する外観を備えていることが条件となっています。 この法は、衆・参両議院とも、趣旨の説明だけで、審議はなく、全会一致で可決・成立しました。そして、家庭裁判所の審判を経て、戸籍の性別が変わった人が何人かいます。 しかし、いくつかの批判や疑問が提起されています。①年齢は20歳以上で妥当なのか、②子どもがいる人が除外されるのはおかしくないか、③性適合手術は身体的・経済的負担が大きく、この手術を受けた人は限られている。したがって、この手術を条件とするのは問題ではないかなどです。 この法は、施行後3年を目途(めど)に、検討することが定められています。慎重に検討し、論議を重ね、必要な場合は適切な改正をすることが望まれます。 私は、この問題を通して、2つのことを学びました。 第1は、「知らぬことのこわさ」です。正しい知識がないため、私は性同一性障害で悩み、苦しんでいた人たちを、「変な人たち」と思っていました。 第2は、少数の性同一性障害の人の立場・意見・希望を最大限に尊重することです。人権問題を考える基礎みたいなことを改めて教えられました。 |
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2006年11月1日
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