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親の教え、仲間の教え小森哲郎(北九州市立大学名誉教授) |
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私の知人で、41歳で大学を卒業した人がいます。お父さんは、彼が3歳のとき亡くなり、小学校1年生の1学期までしか学校に行っていないお母さんは、6人の子どもを大変な苦労をして育てました。中学校を卒業した彼は、「とび職」になりました。そして、「関門橋」の仕事を最後に「とび職」をやめました。高いところでの仕事には、強靭な肉体・神経、冷静で機敏な反応などを必要とします。限界を感じた彼は、市役所の職員となり、ゴミの収集をしています。
そして、昼働きながら、定時制高校に4年、大学の夜間部に4年通いました。「数学」は理屈で考えていけばまだ分かるが、「英語」は単語を知らないとダメなので嫌いだったという彼が、疲れた体に鞭打って8年間、夜、学校に通った原動力の1つは、お母さんの姿でした。 昔ですから、お母さんは毎朝、「かまど」でご飯を炊いていました。その母親は、火箸や小枝、板切れなどで、地面に字を書いていました。学ぶことの大切さを母親の後ろ姿・背中から学びました。すばらしい母親でした。 小学校の低学年の子どもは、父親の絵として、テレビの前で横になってタバコをふかしている姿を描くそうです。電車やバスの絵を描く子どももいるといいます。父親が職場で働いている姿を見たことがないのです。家庭にいるお母さんが、暇な時に、本を読んだり、字を書いたりなどしているのと、テレビばかり観ているのとでは、子どもに与える影響は違うはずです。 次は、仲間が子どもを変えた話です。何年か前、1人のお母さんから聞いた話です。「先天性水頭症」という病気があります。脳細胞や脊髄を保護する「髄(ずい)液(えき)」の循環に障害があると、脳内の空間に髄液が多量にたまり、生後間もなく頭が次第に大きくなります。頭蓋骨(ずがいこつ)が薄く、つなぎ目がよく接合していないので、衝撃を受けると危険です。また、脳の成長が妨げられ、学力が遅れている場合が少なくありません。 この病気の子ども・A君が小学校に入学するとき、学校は、2つのことを決めました。第1は、A君だけでなく、すべての友達の頭をたたいたり、傷つけたりなどしないこと、第2は、友達の身体的特徴や学力の不振などを揶揄(やゆ)したり、見下したり、軽蔑したりなどしないことです。この方針をクラスだけでなく、全校に徹底するのは、大変だったと思います。しかし、進級してクラス替えがあっても、このルールは守られ、A君は無事に中学校に進学しました。 ところが、他の小学校からきた友達には、A君の大きな頭は「異常」に映ったようです。ある日の放課後、露骨にそれを口にした子どもがいました。そのとき、どんな反応が起きたでしょうか。A君と同じ小学校を卒業した友達は、みんなでその人を諭しました。「君の言うことはいけないよ。A君は病気で頭が大きく、勉強も遅れているんだ。それはA君の責任ではないよ。人をたたいたり、傷つけたりしてはいけないし、みんな仲良く、大事にしあわなければいけないんだ」。1人だけではなく、みんなの説得ですから、発言した子どもだけでなく、みんなの胸に響き、クラスの雰囲気は一変したそうです。 家庭で、学校で、職場で、地域で、「人権文化」、人権をお互いに大事にし合う状況を、みんなの力でつくっていく―すばらしい、やりがいのあることだと思います。 |
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2006年11月1日
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