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2008.08.12
意見・主張
  

第3回 部落解放・人権研究者会議を開催しました。

 2008年7月6日(日)、大阪人権センターにおいて、第3回部落解放・人権研究者会議を開催しました。冒頭、寺木伸明理事長のご挨拶を受けた後、2007年度に実施した調査研究事業で、研究成果がまとめられたもののうち、「長吏文書」研究、「部落問題に関する意識の変遷と啓発の課題」研究、「児童擁護施設経験者のインタービュー調査」、「大阪の教育保護者組織の現状と課題」研究について、それぞれ報告していただきました。ここでは、その概要を紹介します。

(1)「悲田院長吏文書について」中尾健次さん(大阪教育大学教授)

成果物は次のアドレスを参照:)

 この文書は、いわゆる「非人」研究の基礎資料としては最大のものではないか。部落史においては「非人」=貧しい人という理解が一般的であるが、今回の文書を検討してみると、かなり広大な屋敷を構えていたこともわかってきた。また仕事としても、権力の中枢にかかわっていたことも明らかになっており、長吏は重要な役割を果たしていたともいえる。

 垣外組織の仕事としては、治安維持がある。各垣外から垣外番が派遣され、交番所の役割を果たしていた。また、その町々で起こる問題、捨て子の世話や町内の清掃、いさかいの仲介など、さまざまな雑業に従事していた。その結果、賎視の対象でありながら、各村々から一定信頼され、番非人がいなくなれば派遣を依頼されたりしたのである。その傍らで大坂町奉行の支配下に置かれ、情報の収集に努めた。また、各村々にも番非人が置かれていたが、これが長吏と密接な関係を有しており、河内、摂津など大坂全域から播州にまでネットワークを広げ、さまざまな調査を担っていた。米の作柄や買占めに関する調査、素行調査、逃亡した犯罪人の捜査を近畿各地に広げて行っていた史料も含まれている。

 質疑においては、収入源の内訳、世襲の実態、キリシタンとの関係、読み書きの能力の問題、鑑札の発行、非人身分の人口増加、長吏とかわた身分とのかかわり、さらには長吏に対する町衆のまなざしについての討議が行われた。

(2)「部落問題に関する意識の変遷と啓発の課題」竹村一夫さん(大阪樟蔭女子大学)

成果物は次のアドレスを参照:

 これまで数多くの部落問題に関する意識調査が実施されてきたが、どういう成果があるのか、何が明らかになったのかという総括的な文献はない。そこで、まず、実施された意識調査はどういうものなのかをデータベース化しようと試みた。府県レベルと、政令指定都市が実施した調査に絞り、どのような調査内容で、何を質問したかを検討した。

 その上で、継続して実施されている1府4市(大阪府、大阪市、堺市、北九州市、名古屋市)をピックアップして、それぞれの調査の特徴と、啓発の課題について分析を試みた。

 総じて言えば、いずれの自治体の調査も、「分散論」や「寝た子を起こすな」論は大きな変化がないことがわかる。そのため、地区住民による異議申し立ての取り組みを尊重する意識の醸成は、教育啓発のめざすべき課題である。忌避感情があまり変化していないものの、結婚差別の存在を認める見解は減少している。これはなぜなのかを検討する必要がある。さらには、身元調査については、特に名古屋では差別ではないという意見が半数を占めている。そこで、伝統的価値観や社会意識項目のうち、何が部落差別意識と関連し、何が関連していないのかを過去の調査の分析を通じて明らかにする必要があろう。

 なお、質疑においては、分散論に関して、今日の流出入がその土壌となっているのではないか、この意識調査に関する検討を通じて、どうすれば部落差別をなくしていくことができるかが見えたかどうか、どのような質問の仕方が有効なのかという項目の検討の必要性、同和教育と部落問題に関する意識の関係、特措法の終了と部落差別の存否の関係、回答しない人は部落問題に関して基本的に消極的であるのかどうかという問題、データベースの研究所HP上での掲載の要望などについて議論された。

(文責:李嘉永)

(3)「児童養護施設経験者の学校から職業への移行過程」長瀬正子さん(常磐会短期大学)

成果物は次のアドレスを参照:

 この調査研究では、児童養護施設経験者が、施設から社会生活に移行する際の課題について、13人の方に対するインタービューを通じて検討した。

 特に、〈1〉児童養護施設経験者へのインタービュー調査の意義、〈2〉13名のインタービュー対象者の高校卒・専門学校卒・大学卒のキャリア展開、〈3〉移行における様々な困難と克服要因について触れられた。

 質疑においては、〈1〉施設入所の経緯と進路選択への影響、〈2〉家庭の叙述が少ない理由、〈3〉小中学校での教育実践と当事者の受止め、〈4〉調査方法で仲介者が同席することの意義、〈5〉学校現場の課題に対するタテ割り行政の弊害と人権教育概念の積極的意義、〈6〉負の連鎖を断ち切る上での学校教育の責任などが出され意見交換された。

(4)「大阪の教育保護者組織の現状と課題」高田一宏さん(兵庫県立大学)

部落解放研究182号参照l

 現在、大阪の部落の教育課題は、特に学力状況や生活基盤に関して、深刻な状況にある。その中で、60年代、70年代に様々な形で結成された教育保護者組織は、現在どのような状況にあるかを検討した。

 報告においては、〈1〉現在の部落の教育課題、特に深刻な低学力問題の存在、〈2〉1990年代後半以降の「転換期」の地域教育運動の総括や普遍的教訓が重要、〈3〉七地区の教育保護者組織の現状、〈4〉とくに保護者などの当事者の声(更池・道祖本地区)、について述べられた。

 質問として、〈1〉法期限後の教員(学校)の関わり方の現状、〈2〉文科省の学校支援地域本部事業の評価、〈3〉学力保障の中身の評価、等が出された活発な質疑がされた。

(文責:中村清二)